読者に教訓を与えるため御伽噺には、その教訓がはっきりしているものもあれば、それが分かり難いものもある。分かり難いものであれば、読者の受け取り方が異なることも多い。
『アリとキリギリス』であれば、真面目に働かないと後で後悔するという点は、ほとんどの人が共通の認識を持っていると思う。
『みにくいアヒルの子』は、「君だって本当は素晴らしいんだ」と言って希望を持たせるお話だと思われているのだと思う。
だが、『ウサギとカメ』は結構意見が分かれ、「真面目にコツコツやる者が勝つ」という意味だと言う人がいれば、「寝ているウサギを起こさなかったカメはフェアではない」という意見も海外では多いらしい。
今の日本の小学校教育で言えば、ウサギとカメは仲良く手をつないでゴールしなければならないことになる。
だが、『ウサギとカメ』は知恵のお話だ。それも、極めて実用的で老獪とすら言えるほどである。
近いものに、宮本武蔵の『五輪書』がある。
武蔵は、敵を「ムカつかせる」ことの重要さを述べている。
これは実話かどうか分からないが、武蔵が決闘の時刻に大きく遅刻することも、敵をムカつかせる作戦としてはありそうに思う。
ムカつくと、どんな人間も実力を発揮出来ない。
『ウサギとカメ』では、カメは言葉巧みにウサギをムカつかせるだけでなく、ウサギに自分を見下させ、慢心させたのだ。
敵を見下す者、慢心する者もまた、やることが雑になり、効率的でなくなり、ミスが多くなる。
『エースをねらえ!』(1973~1980)という漫画に、そんな良い例であるお話がある。
ヒロインの岡ひろみは高校テニス部の素人の新人部員だが、宗方コーチは岡を大会の選手にし、そのせいで実力者の上級生、音羽京子が外される。
音羽は宗方に、岡との試合を要望し、宗方が許可する。
実力的には音羽が圧倒しているが、『ウサギとカメ』のごとく、ムカつかされ、岡を見下し慢心した音羽は実力を発揮出来ない。
まあ、そうであっても、歴然とした実力差をひっくり返すのは難しいが、お話としては良いだろう。
結局、『ウサギとカメ』というのは、日本人に好まれる「コツコツやれ」という話と言うよりは、「ムカつくな。冷静でいろ。相手を見下すな。慢心するな」という教えであると思う。
あるいは、「敵をムカつかせ、動揺させ、見下させ、慢心させろ」ということでもある。
しかし、究極は「思考を消せ」という教えなのだ。
これも、言い換えれば「敵に余計なことを考えさせろ」ということだ。
思考するから、ムカつく、冷静でなくなる、相手を見下す、慢心するのである。
◆当記事と関連すると思われる書籍等のご案内◆
(1)五輪書(宮本武蔵)
(2)イソップ寓話集 (岩波文庫)
(3)エースをねらえ! 1(山本鈴美香)

AIアート1986
「幼心の君」
Kay
『アリとキリギリス』であれば、真面目に働かないと後で後悔するという点は、ほとんどの人が共通の認識を持っていると思う。
『みにくいアヒルの子』は、「君だって本当は素晴らしいんだ」と言って希望を持たせるお話だと思われているのだと思う。
だが、『ウサギとカメ』は結構意見が分かれ、「真面目にコツコツやる者が勝つ」という意味だと言う人がいれば、「寝ているウサギを起こさなかったカメはフェアではない」という意見も海外では多いらしい。
今の日本の小学校教育で言えば、ウサギとカメは仲良く手をつないでゴールしなければならないことになる。
だが、『ウサギとカメ』は知恵のお話だ。それも、極めて実用的で老獪とすら言えるほどである。
近いものに、宮本武蔵の『五輪書』がある。
武蔵は、敵を「ムカつかせる」ことの重要さを述べている。
これは実話かどうか分からないが、武蔵が決闘の時刻に大きく遅刻することも、敵をムカつかせる作戦としてはありそうに思う。
ムカつくと、どんな人間も実力を発揮出来ない。
『ウサギとカメ』では、カメは言葉巧みにウサギをムカつかせるだけでなく、ウサギに自分を見下させ、慢心させたのだ。
敵を見下す者、慢心する者もまた、やることが雑になり、効率的でなくなり、ミスが多くなる。
『エースをねらえ!』(1973~1980)という漫画に、そんな良い例であるお話がある。
ヒロインの岡ひろみは高校テニス部の素人の新人部員だが、宗方コーチは岡を大会の選手にし、そのせいで実力者の上級生、音羽京子が外される。
音羽は宗方に、岡との試合を要望し、宗方が許可する。
実力的には音羽が圧倒しているが、『ウサギとカメ』のごとく、ムカつかされ、岡を見下し慢心した音羽は実力を発揮出来ない。
まあ、そうであっても、歴然とした実力差をひっくり返すのは難しいが、お話としては良いだろう。
結局、『ウサギとカメ』というのは、日本人に好まれる「コツコツやれ」という話と言うよりは、「ムカつくな。冷静でいろ。相手を見下すな。慢心するな」という教えであると思う。
あるいは、「敵をムカつかせ、動揺させ、見下させ、慢心させろ」ということでもある。
しかし、究極は「思考を消せ」という教えなのだ。
これも、言い換えれば「敵に余計なことを考えさせろ」ということだ。
思考するから、ムカつく、冷静でなくなる、相手を見下す、慢心するのである。
◆当記事と関連すると思われる書籍等のご案内◆
(1)五輪書(宮本武蔵)
(2)イソップ寓話集 (岩波文庫)
(3)エースをねらえ! 1(山本鈴美香)

AIアート1986
「幼心の君」
Kay

