高校サッカーの屈指の名門校でも何でもない普通の高校のサッカー部で熱心に練習していても、プロサッカー選手にはなれない。
普通の高校で試験勉強を頑張っている程度では一流の科学者になどなれない。
音大や芸大に入って、普通に励んでも、音楽家や画家にはなれない。
特に恵まれた環境にいない者が高い位置に昇ることは難しい。
それほど高度な話ではなくても、何の特技もないサラリーマンが、弁護士や経営者やIT技術者になろうとしても、若くても難しいし、年齢が高いほど厳しいだろう。

どうすれば、望む自分になれるのだろうか?
これについて、私は、僅か100円の電子書籍ながら貴重な対談書である『大企業の時代は終わったか』(PHP研究所。2013年)に注目したことがある。
現在は、KADOKAWAやドワンゴの社長を務める夏野剛氏と、当時も現在もチームラボの社長である猪子寿之氏の対談である。
この中で、簡単に言えば、天才と言われる猪子氏が、
「天才はいない。人間が生まれ持った能力に差はない。結果を決めるのは、かけた時間の差だけ。ドラフト上位でなかったイチローがメジャー屈指の選手になれたのは、誰よりも長時間練習したから」
と述べている。
また、『村上龍と坂本龍一 21世紀のEV.Cafe』の中で、村上龍氏は、坂本龍一氏について、
「今日の坂本があるのは、才能ということもあるが、3歳の時からピアノをみっちり弾いたからだ」と述べ、何ごとも10年、懸命にやれば実力がつくのだと力説する。

猪子氏や村上氏の論には、ある程度賛成であるが、特別な位置を求める普通の人には、あまり意味はない。

そこで、もう1つの視点を導入する。
プロレスがショーであることは既に知られているが、とはいえ、実際に強くなくては高位に行けない。
その中で、プロレス史上最高のレスラーと言われるのがルー・テーズだったが(異論はある)、テーズがこんなことを自伝に書いていたことを重要に思った。
「一つだけ技を挙げろと言われればダブル・リストロック」
ダブル・リストロックは、見かけは地味な関節技である。だが、この技の達人であったから、テーズは「地上最強の鉄人」と言われるようになれたのだ。
テーズの場合はオールマイティーであったが、世の中には、その業界で特に実力があるわけではないが、何か1つ、飛び抜けた特技があるためにトップの地位にいる者がいるものだ。
野球で言えば、他にはさしたる能力はないが、ナックルボールという変化球が滅茶苦茶上手くて、メジャーでトップクラスの投手になった選手もいる。
もちろん、こういった特殊な特技を磨くにも時間はそれなりにかかるが、それほどでもない場合も多く、驚くべき少ない時間で達成した者も、実際は少なくない。
システムエンジニア・プログラマーの世界でも、JavaもPythonも出来ないし、OSやネットワークにも詳しくはないが、Excel VBAやAccess VBAがやたら上手くて、悪くない位置にいる者を私は知っている(他にも、少ないが、MAGICやClaris FileMakerの場合もある)。
彼らの多くは、それほど修行したわけではない。
彼らに比べれば、私などは器用貧乏に思えてくるのだ。

だが、どんな特技を持つべきか選ぶのは難しい。
そして、分かってきたことは、そんなこと(どんな特技を選ぶか)は、考えたって分からないということだ。
ほとんどの場合は、本人からすれば、偶然にそれに導かれたと感じているのである。
そんな「斜め上」の力を持つ者は、偶然にそれを得たように見えても、やはり、共通点があるのだ。
それが何か、なかなか上手く言えないが、敢えて言えば、どこかピュア(純粋)なのである。
それにより、幸運に恵まれる精神特性を持っているのだと思えるのである。
高慢ではなく、愚直で、こだわりがなく、それでいて、自分の正義を強く持っている。
モーリス・ルブランやコナン・ドイルは、アルセーヌ・ルパンやシャーロック・ホームズを、商売上の理由から人気者にしようとしたのも確かだが、彼らの天才的な感性は、そのためには、それらの登場人物に高潔さが必要であると気付いたのだと思う。そして、彼らは、ルパンやホームズに、優れた精神性を持たせ、結果、これらの架空の人物達は世界的ヒーローになった。
私は、石ノ森章太郎氏の『サイボーグ009』が歴史的な作品になったのも、漫画としての面白さと共に、主人公の009こと島村ジョーの崇高な人柄があったからだと思う。このジョーの性質こそ、幸運を呼ぶものではないかと思う。それは、派生作品や、石ノ森氏の息子の小野寺丈氏が引き継いだ作品にも明確に認められると思う。
後、愚直に腕振り運動を続ければ、そんな性質を持てるのではないか・・・と私は期待している(笑)。








  
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