皆さんご存じだろうが、昨日3月11日は、2011年に東日本大震災が起こった日で、これは「311」と呼ばれている。
世界的音楽家の冨田勲氏が、2012年11月に初演が行われた『イーハトーヴ交響曲』を制作したのは、この大震災が大いに関係していた。
私が当時、テレビを見ていて記憶しているのは、以下のようなことだ。

『イーハトーヴ交響曲』制作の10年ほど前、世界的な電子工学研究者で、冨田氏のはとこでもある、元東北大学の総長だった西沢潤一氏が冨田氏に、宮沢賢治の『雨ニモマケズ』に曲をつけて欲しいと依頼してきたことがあったが、冨田氏は、なかなかそれが実現出来ないでいた。
ところが、冨田氏は、子供の時から、宮沢賢治の作品に魅せられていて、二十歳くらいの時からは、60年近く、いつか宮沢賢治の作品を音楽作品で表現したいと構想を温めていたようだ。
そして、東北地方を襲った、あの大地震である。
冨田氏には、震災に関して、強烈な体験があった。
冨田氏は子供の時、東南海地震(1944年12月)、三河地震(1945年1月)という2つの大震災に見舞われていた。
多くの家が倒壊し、ライフラインは断たれたが、当時は太平洋戦争末期で、救援など来るはずがなく、極寒の中、見捨てられた大勢の人達がなす術なく死んでいくのを、少年だった冨田氏は見ていた。

そして、冨田氏が、80歳にして最後の交響曲を作る決意をさせたのが、たまたまテレビで見たらしい、初音ミクのライブコンサートだったようだ。
冨田氏は、この交響曲は、オーケストラだけでなく、歌唱を入れたいと思っていたが、宮沢賢治の幻想的な世界を歌うのは、普通の歌手ではイメージが合わなかったようである。
そこで、バーチャルな存在である初音ミクを見て、これだと思った冨田氏は、初音ミクの会社(クリプトン・フューチャー・メディア)がある北海道に飛んだ。
そこからの経緯も憶えているが、非常に長くなるので(以前書いたが)ここでは省略するが、いろいろな困難がありながら、2012年11月23日、東京オペラシティ・コンサートホールで、日本フィルハーモニー演奏、指揮、大友直人で、『イーハトーヴ交響曲』初演が満席の中で行われた。

私は、初演の翌年の2013年9月21日に、大阪のオリックス劇場で『イーハトーヴ交響曲』を観劇した(演奏は大阪交響楽団)。
上演後、冨田勲氏が自ら舞台に立って、作品についてのお話をされたが、まず、冨田氏は、その日が、宮沢賢治の80回目の命日であることを告げられた。
私は、翌2014年の9月にも、大阪のフェスティバルホールで、大阪芸術大学演奏の『イーハトーヴ交響曲』を観劇した。
この時も、冨田勲さんは舞台に立たれた(白いスーツを着ておられた)。
司会者の女性や、指揮の大友直人氏が、気を利かせて作品の説明をされていた中、冨田氏が「僕にも喋らせてよ」と言われたのを憶えている。
私が最後に『イーハトーヴ交響曲』をライブで聴いたのは、2016年11月に渋谷のBUNKAMURAオーチャードホールで、冨田氏の交響曲『ドクター・コッぺリウス』の第1部として上演されたものだが、冨田氏は、この年の5月5日に84歳で亡くなられていた。
冨田氏が亡くなられた時、『ドクター・コッぺリウス』は制作中ではあったが、譜面はほぼ出来ていたので、遺族の要望もあり、予定通りに上演が行われたようだ。
私は、この交響曲の中で、私の好きな冨田氏のアルバム『ドーン・コーラス』の中の『パルサーからのよびかけ』が演奏されたのが印象的だった。

冨田勲氏のことを私が細かく憶えているのは、私が大好きな初音ミクさんを最後の2つの作品で採用されたこともあるが、非常に羨ましい生き方であると思えるからだ。
才能とか恵まれた環境もあったのだろうが、とにかく、自分の好きなことに邁進し、運も味方し、道を開いていった。
1つの理想的な生き方であると思うし、もっと注目されても良いと思う。
冨田氏の『イーハトーヴ交響曲』の前に、渋谷慶一郎氏がオペラ『THE END』で初音ミクを採用するなど、初音ミクは芸術分野にも進出し、近年では、中村獅童氏と共演の『超歌舞伎』や、オーケストラとの共演の『初音ミクシンフォニー』などが毎年行われている。
ところが、中国のヴァーチャルシンガー(初音ミクと同じ、ヤマハのボーカロイドシステムを採用している)洛天依(ルォ・テンイ)の芸術分野での展開は凄い。どう見ても相当な費用がかかっているはずで、とても採算が取れているとは思えないが、中国独特の何かがあるのだと思う。
壮大なホログラムの演出や、世界的ピアニストのラン・ランや、その他の一流演奏者、歌手との共演は少々驚くほどで、国内芸術としてバーチャルシンガーを本格化しているように思う。
今後の日中のボーカロイド(ヴァーチャルシンガー)の展開は興味深い。








  
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