「事実は小説よりも奇なり」と言う。
イギリスの詩人・作家ジョージ・ゴードン・バイロンの傑作小説『ドン・ジュアン』にある言葉で、英語でそのまま“Fact is stranger than fiction”だ。
逆に言えば、小説はそれほど奇ではない・・・と言えるかどうかは分からないが、笹沢佐保さんの時代劇小説『木枯し紋次郎』で、主人公の流れ者の渡世人、紋次郎がやった「願望成就法」は、非常に印象的で、ただの作り話とは思えない。
だいたいで、こんな内容である。

上州長脇差(じょうしゅうながどす)と称される凄腕の紋次郎だったが、ある時、身に降りかかる火の粉を払うように、やむなくヤクザ者を1人刺し殺したが、その際、刀を折ってしまう。
紋次郎は、刀は良いものを持つことにしているが、日本刀は、硬いが折れ易いという面はあると思う。
紋次郎は、殺したヤクザの大勢の仲間に追われるハメになったが、いかに紋次郎でも刀がなくては襲われたら最後だ。
早く新しい刀を手に入れなければならないが、そう簡単にはいかない。
そんな時、紋次郎は、近くの山の中に、名鍛冶師がいると聞き、早速訪ねてみた。
そこにいたのは、江戸で刀鍛冶師として名を上げるも、今は山にひきこもり、農民の鍬や鎌を作って生計を立ててるという、まだ若い鍛冶師だった。
名鍛冶師は、刀は無いが、紋次郎に家に泊まっていくように言う。
紋次郎が翌朝、いつもの通り早くに起き、外に出ると、名鍛冶師も仕事を始めていた。
見ると、一本の刀を作っているところだった。
長い日数、丹精を込めて鍛え上げていった逸品だった。
紋次郎に気付いた名鍛冶師は、紋次郎に、この刀はその鞘にぴったりのようだが、これは売らないと言い、仕事を続ける。
刀は完成間近だった。
名鍛冶師が淡々と休息もせず仕事を続けるのを、紋次郎は少し離れて静かに見ていた。
そして、日も暮れる頃、ついに刀は完成する。
紋次郎はやはり、微動だにせずそこにいた。
名鍛冶師が紋次郎に近付き、黙って手を出すと、紋次郎も黙って自分の刀を差し出す。
それを受け取った名鍛冶師は、紋次郎の刀を鞘から抜き、折れた刀を柄から外すと、完成したばかりの刀をそれに丁寧に取り付ける。
刀を紋次郎に渡すと、名鍛冶師は「御代は要りませんよ」と言う。

解説はしないが、これほどの成功哲学はないと直感的に感じる。
もう随分前に読んだので、『木枯し紋次郎』のどの巻にあった何という話かは忘れた。
ところで、紋次郎は同じ手を別のところでも使い、やはり奇跡を起こしている。
ポイントは沈黙だろうか。
そして、きっと、紋次郎の呼吸は微かだったに違いない。
だから昔から、「息を忘れた者を鬼神すら敬う」と秘されているのである。









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