土と砂の違いについて明確に答えられる人がどれほどいるだろう?
土は固く、砂は柔らかいという印象はあるが、それだけだろか?
私は、幼い頃、鉢植えでチューリップを栽培しようとして、家の近くにあった砂場から砂を取って鉢に入れたら、父親は、その「砂」では駄目だと言う。
私は驚いて、なぜ駄目なのかと聞いたら、父親は、砂には養分が無いからと言う。なら養分を入れれば良いと思ったが、そうではないようだ。
結局、このことの疑問はいまだ解かれていない。
しかし、つまるところ、土の砂の違いがあるとすれば、粒子の大きさの違いで、砂は細かく、土は粗い(大きい)のだろう。
だが、それがどう植物の生育に関わるのかというと、静電気の問題である。
粗い粒子の方が帯電しやすく、水、空気、栄養分を吸着しやすいのだろう。

素人が花や野菜の栽培をしていると、農家の人など、植物栽培の専門家が、「それじゃ駄目だ!」と飛んできて注意するということがよくある。
例えば、
「その種は、もっと深く(あるいは浅く)埋めないといけない」
と言う。
なぜかと聞くと、「そういうもんなんだ」と言う。
他にも、植物の種類によって、種を植えるのに良い場所が違ったり、やはり種類によっては、芽が出るまで覆いを被せて日陰にしろとかいう。
その多くの理由は、やはり、「そういうもんだ」と言われることが多い。
種を植える深さもまた、静電気の問題だ。
土の深さによって帯電具合が異なり、植物の根も、根元、先、中央で帯電具合が異なるので、土の帯電と根の長さに配慮した深さに植えないといけない。また、日光の問題も、日光が土の帯電に影響するからである。
農家の人達は、そういったノウハウを、代々受け継いできたり、経験的に知っていたり、その両方であるのだろうし、農業学校に行ったことがないので分からないが、そこでも、「そういうもんだ」といった知識を教えるのかもしれない。
おそらく、上の静電気の話は、学校では問題にしないのではないかと思う(知らないので勝手なことを言うが)。

だが、古代の農民は、経験しなければ分からなかったというのではなく、直感的に分かったということがあると思う。
「種が教えてくれる」とか、「土が教えてくれる」といった感じなのだ。
なぜそんなことが言えるのかというと、私ははっきりと経験しているからだ。
初めて天体望遠鏡を手に入れた小学4年生の時、土星を見ようと思って、何の手がかりもなく、適当に1つの星を選んで望遠鏡で見たら、それは必ず土星だった。
何かが私に教えてくれたのだ。そんなことは、他にも沢山あった。

アインシュタインと共に20世紀最大の科学者と言われることもある化学者のライナス・ポーリングが初めに卒業した大学がオレゴン農業大学だったというのは興味深い。どれほど彼が農業に関わったのかは知らないが、彼が分子生物学や医療化学に多大な功績があるのは、何らかの方法で自然を深く観察する機会があったからだと思う。
化学とは、化学物質の挙動を学ぶ科学の一分野だ(ブラディ『一般化学』より)。
ただ、誤解されているのは、化学物質という言葉で、普通の人は何か毒々しいイメージを持っているのだ。
清浄な水も化学物質だし、澄み切った新鮮な空気も化学物質だ。化学物質が無いとは真空中だけだ。
もっとも、物質は無くても、真空中には何かがあるのだが、それは物理学でも認識されていないかもしれない。
教科書や実験室だけの科学を学校で教えていてはいけない。
私が子供の頃に持ったような疑問に分かり易く答えられる、実践的な科学でなければならない。
そうすれば、私が土星を見つけたように、科学で説明できないことが明瞭に浮かび上がってくる。
しかし、学校の科学では、全てが謎だらけになってしまう。そんなものは学問ではない。

宮沢賢治は、今の岩手大学農学部である盛岡高等農林学校を卒業している。卒業した時、助教授推薦の話があったが賢治は断っている。
賢治は、生涯に渡ってだと思うが、片山正夫の『化学本論』(1915)を座右の書としていたという。
それは、賢治が単に化学好きであるからではなく、農業を通して自然を観察する中で自然の英知に触れ、その意味を知りたいと思ったからではないかと思う。
賢治の作品には、決して学問的なだけでない、科学の本質を表すような内容がよく見られる。それは全く格式ばっていたり、冷淡であったりはせず、生命力に溢れ、温かい。そこに、本当の学問をした賢治の賢さが表れていると感じるのである。
片山正夫の『化学本論』は、今では入手困難だろうし、そもそも、今の時代にそぐわないかもしれない。
私には、大学に入学した時に買わされた『バーロー 物理化学』があった。これも立派な本だし、読んでみたら面白いが、座右の書とするようなものではない。また、ポーリングの名著の翻訳である『一般化学』はなぜか絶版だ(英語版は出版中)。
ところが、『ブラディ 一般化学』を読んだところ、あまりに素晴らしいので驚いた。化学の比較的初学者向けのテキストであるのだが、科学的な考え方を教えることに大きな、そして優れた配慮がなされている。こんなテキストは見たことがないと思う。
ブラディは、この本は化学の予備知識がなくても読めるし、徹底的に分かり易くしてあると述べている。その通りと思う。それでいて、高度な知識に導くことにも自信を示している。
科学に興味があるなら、安っぽい「すぐ分かる」的なものではなく、この本をお奨めする。









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