「いかに熱望したものでも、得てしまえば、さほどでもなくなる」
アメリカのSFテレビドラマ『宇宙大作戦(スター・トレック)』で、バルカン星人のミスター・スポックが言った、このことをよく憶えている。
しかし、いかに含蓄に富む言葉であっても、私は扱いかねていた。

そして、単に、「喜びはすぐに醒める」どころではないことを、やっと理解できた。
上のスポックの言葉は、実は恋愛絡みであったので(スポックをご存知なら驚きだ)、そんな話で続ける。
例えば、あなたが男で、ある素晴らしい美少女に夢中になり、幸運にも、彼女と結ばれたとする。
それで、いつか喜びが醒めるだけなら、まだ良いだろう。
しかし、まだ熱い幸せを感じているあなたの前に、別の魅力的な少女が現れて、あなたは、そっちに強烈に魅かれる。あるいは、逆に、はじめの彼女の方が別の男の虜になるといったことが必ず起こるのである。
そういったものではなく、2人の間に、別の大きな困難が訪れるということもある。
いずれの場合も、2人は相手を嫌いになったという訳ではない。
単に、相手に飽きたとか、愛想を尽かしたとかいうなら、愚かな者同士として別れればいいだろう。
そうではなく、2人とも苦悩することになるのである。

それを、「運命のいたずら」とか言うのだろう。

「いや、必ずしもそんな悪いことは起こらない」と思うかもしれない。
あっさり言うが、そうかもしれない。
だが、次のことは断言できるのである。

「もし、運命があなたに優しいなら、そういった悪いことは必ず起こるのだ」

書き間違いではない。
幸せに結ばれたカップルは、運命の恵みにより、悲痛の中で引き裂かれるのである。
もし、そのまま何事もなく行けば、それこそ不幸だ。
繰り返すが、昨今珍しくもない離婚のようなものとは別の問題である。

さて、この話の真意は何であろうか?
ここで、別の話で述べることで、真相がはっきりするだろう。

何でも良いのでだが、武道の修行とでも思ってもらえばよい。
師が弟子にある課題を与える。
真面目で熱心な弟子は、それを苦労しながら何とか達成し、意気揚々と師の前に出る。
弟子は、鍛錬の成果を見せれば、師は驚くだろうかとか、すごく褒めてくれるだろうかと思い、うきうきしている。
ところが、師は、ろくに弟子の成果を見ることもなく、別のことをやらせる。
それは、前の課題よりずっと難しく、弟子は手も足も出ない。
弟子はすっかり惨めな気分になり、期待を裏切った師に恨みすら抱く。
では、師はなぜそんなことをしたのだろう?

師は、弟子の力量から見て、前に与えた課題をクリアすることは可能だと思っていたし、弟子の嬉しそうな様子から見て、その通りになったことは分かったのである。
だが、その弟子は、自分ほどの運命に恵まれていなかった。
だから、師は、弟子から、成果を奪い取ったのだ。
もし、運命がもっと弟子に優しいなら、運命がそれをしたことだろう。
そもそも、弟子になるってことは、師ほどの幸運に恵まれていないということに過ぎない。
もし、師が弟子の成果を奪わなければ、弟子の進歩は止まったのである。そして、堕落するしかなかったのだ。

最初にあげた、結ばれた恋人同士にしても、運命が優しくなくて、そのままであったなら、2人はさぞやつまらない、見るに耐えないカップルに堕落したのである。

ZARDの『君がいない』という歌に、

トキメキがやすらぎに変われば、刺激というスパイスだって必要かもね

という詩がある(作詞は坂井泉水さん)。
刺激というスパイスが必要なカップルなんて、残念ながらもう終わっているのだ。
良いカップルなら、嫌でも何か起こるのである。

私が知っている、ある職人は、修行が進み、かなりの腕になった頃、機械の操作を誤ってしまい、指を1本、半分ほど無くしてしまった。
しかし、そのおかげで、彼はさらに高いレベルの職人になったという。
もし、そんなことが無ければ、彼は、ちょっと腕の良い、ただの職人で終わり、いつか、仕事にも飽きていたことだろう。
運命は彼に優しかったのである。

人間というのは、先に進むか、退歩するしかないのである。
現状維持というのは有り得ない。
だから、運命が優しいなら、何かを得ても、それを速やかに奪い去るのだ。
そして、更に先に進ませるのである。

もし、運命に恵まれていないと思うなら、出来れば、自分から、さっさと成果を捨てることだ。
その重要性に気付いている人も稀にだがいる。
もっとも、単にうまくいかないだけで投げ出すことと、成果を捨てることは全く違うのは、言うまでもない。
そうではなく、絶頂期になぜか引退する人達だ。自分でもよく分からないが、そのまま続けることの恐ろしさを感じることが出来たのだ。
しかし、もし、もっと運命に恵まれているなら、強制的に奪い去られるのだ。









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