インドの聖者ニサルガダッタ・マハラジを落胆させていた駄目な弟子が、ある時、「誰がかまうもんか」と手紙に書いてきたのを、マハラジは大いに喜んだ。
本の序文のところに書かれてあったので、私は、その本を読まずに放り出した。
私も、それでOKだと思ったからだ。

これが、「誰がかまうもんか」でなく、「かまわなくていいじゃないか」だったら、駄目なのである。
丁度、岡本太郎が、「誤解されたっていいじゃないか」と言った後で、「いや、誤解されないといけない」と言ったから意味があるようなものだ。
彼は、「認められなくていい」と言っただけではなく、「認められてたまるか」と言ったのだ。

分かりやすい話で説明しよう。
デートの時、遊びに行くところや、食事で食べるものについて、「何でもいいです」というのは、言われた方は非常に困るものだ。
「何でもいいです」と言いつつ、内心、要求は持っていて、それは表情や態度に表れてしまうので、相手に気を使わせてしまうのだ。
自分の娘とか、下心だけでデートするような男でなければ、付き合いきれないだろう。
土台、本当に、「何でもいい」と思っているような人は、デートをしようなどと思わないものだ。なぜなら、食べ物に本当にこだわらないのは、悟りを開いた人くらいで、そんな人はデートをしたり、遊びに行くことに興味があるはずがないからだ。

だが、「何でもいいです」で許される場合が1つある。別に、悟りを開いた聖者の場合ではなく、普通の人でもだ。
それは、たとえ、「本当に何でもいい」と思っていなくても、心の全エネルギーを使って、「本当に何でもいい」とする覚悟を決めている人だ。
女の子の場合、面白味のない子ということにはなるだろうが、男でも、女でものめり込んでしまうほど愛されることになる。しかも、下心だけの男は手も足も出ないのだ。
ただし、本当に何でもいいでなければならない。
食事が、たとえ小鳥の餌でも、本当に満足しなければならない。それには、心の全エネルギーを注ぎ込まなければ上手くいかず、そうでなければ、相手を騙すことになったり、自分の心も抑圧する。しかし、全力全開でそれをする場合は、相手は決して疑わず、自分も晴れやかなのだ。

『荘子』に、天下部類の醜男でありながら、女にも男にもモテまくる男の話がある。
何か特技がある訳でも、高い見識を持っている訳でもない。主張をすることもなく、野望がある訳でもない。
だが、若い娘は皆、妾でいいから側にいたいと言い、男はみんな義兄弟になりたがる。国王は、総理大臣の座を押し付けてしまう。
この話を読んで、妙な期待を持つ者が多いかもしれない。「それなら、俺でも出来る」と。
それは大誤解である。
この男は、怠惰であるのでも、無努力であるのでもない。
心の全エネルギーを使って無為に徹しているのだ。
無為とは、不断の活動であり、何より激しい活動なのだ。

ニサルガダッタ・マハラジの弟子が言った、「誰がかまうもんか」の意味が分かるだろうか?
彼は、自分に向かってそう言っているのだ。
「誰がかまうもんか!」と、心の全ての力を使って、無為であろうとしているのだ。やがて彼は、悟りに至るだろう。

悟りを開くには、何に対しても、「どうでもいいことだ」と思うことだ。
そう教える者は多いが、それは大誤解を与えるし、ほとんどの場合、言っている本人が誤解しているのだ。
本当に「どうでもいい」と言うのは、大変なことなのだ。
見知らぬ人にいきなり頭を殴られても「どうでもいい」でなければならないのだ。
お金を盗まれても、騙されても、裏切られても、「どうでもいい」と言えるだろうか?
そう言うためには、心の全てのエネルギーを注ぎ込まなければならないのだ。
そういった意味を含めた「どうでもいい」が、「誰がかまうもんか」である。

スコットランド出身の哲学者で神学者であるマード・マクドナルド・ベインがまだ若い頃、偉大な聖者に会って、思わず、自分がこれまで学んできたことを必死に話した。自分も、それなりの者であることを分かってもらいたかったのだろうし、実際、常人と比べれば驚くべき境地にあったはずだ。
聖者は、熱心にそれを聞いたが、最後に、「そんなことが本当かどうかは、大した問題じゃないのだよ」と言った。
それでベインは悟りを開いた。
だが、ベインは、心の全力で、師のその言葉を受け入れたのだ。それは、決して心地良いものであったはずがない。それどころか、溺れている時に、あえて顔を水の上に出すのを諦めるほどの苦しさであったはずだ。それが、心の全エネルギーを注ぐということである。
食の慎みも、性欲の制御も、楽にできるものではない。
しかし、心のエネルギーを全力全開で注ぎ込めば、必ず出来るのである。









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