一頃、大相撲の八百長が世間を騒がせた時、八百長を行った力士が、八百長の取り組み内容について相手力士に通知した携帯メールの中の、「後は自然な流れで」というのは、ちょっと流行になったと思う。

だが、どの八百長の取り組みも、自然の流れとは見えなかっただろうと思う。
八百長という作為が入ったものは、どうやっても自然からかけ離れたものになるだろう。八百長が本業であれば話は別であるが。
人間というのは、本来は、自然か自然でないかの感覚は敏感なのである。
そして、自然の流れに乗れば、何事もうまくいく。それは難しいことではない。つまり、本当は、幸福になるのは容易いことなのだ。
では、自然の流れとは何だろう?

一言で言えば、荘子が言ったように、無作為(あるがままにまかせること)であることだ。しかし、無作為とは、何もしてはいけないということでも、何もしなくて良いということでもない。
何もしないことが、むしろ作為であることもある。
逆に、何かをすることが無作為であることもある。

自分が行為者であるという自覚なしに行われることは無作為で自然だ。
しかし、例えば、ネット上で、違法な音楽などのデータをダウンロードして利用することは、無自覚な行いではない。もしかしたら、悪意は持っていないかもしれないが、そのようなものを楽しもうと思うことは、無知に覆われた心から起こることなのだ。
そして、作為の原因は無知なのだ。

私はある時、違法な配信サイトでアニメを1話見た。その時、無知に覆われていたのを感じた。
すると、私のパソコンが奇妙で不快な異常を起こした。苦労して修復した後、私は、二度とそのようなことはしないと誓った。
私の場合は、パソコンの一時の異常で済んだが、無知に覆われた行為は、確実に何かを奪う。それは、即刻でないかもしれないが、いずれ、それは現れる。他のことと結びついて、より大きな災いになる場合もある。遠い未来や、来世にまで持ち越されるようなものを、人々は昔からカルマ(因果)と呼んできた。
本人は対して悪いことをしていないつもりでも、殺人と変わらないような行為もある。昔、丹波哲郎さんが、「車の窓からゴミを捨てるのは、殺人と変わらない。自分さえよければ、人はどうなってもいいという考え方において、全く同じだからだ」と言っていたが、うなづけるのである。それならば、携帯電話を見ながら歩いたり、歩きタバコをするのも、殺人と何ら変わらないであろう。

行為者の自覚なく行われる行為は、カルマを作らない。
つまり、自然な流れで行われたことは、不幸の原因にならない。
良い行為とは全て、無自覚な行為だ。
善意の行いなど、全て作為的なのだ。
寄付は良いものであるが、自分が寄付をしているという考えなしに行われなければならない。それは自然な寄付となって、大いに役立つ。
お金が惜しいと思いながら寄付をすると、良い結果にならない。相手にも自分にも。
行為者であるという自覚を持たず、欠乏感なく与えると、数倍になって返ってくる。
不幸な人を見て、自然の本性に従って手を差し伸べることは、実は無自覚で自然な行為だ。
例えば、電車でご老人に席を譲る時、自分が行為者であるという自覚なく行えば恥ずかしくもないし、自然に行える。しかし、作為的にやるから恥ずかしいのだ。
そして、ご存知のように、席を譲らないことはとても不自然で作為的なのだ。

我々は、心による支配から解放されなければならない。
生きている限り、心は作用を続けるだろう。だが、それを、自分と何の関わりもないものと感じなければならないのだ。
イエスが、「汝敗れたり。我が後方に退けサタン」と言った時のサタンとは心である。
そして、イエスの言った「我」は、真の自己、真我であるキリストのことだ。インドでなら、アートマンと言うのだろうし、仏教では仏陀というのだろう。
心が真の自己の後ろに控えた者には、積み重なったカルマも影響を与えない。
心を自己と混同することを無知と言うのである。心を自己の道具とするなら、無知は拭われている。これは、心を卑下したのではない。用途を間違えてはならないという意味だ。心は、外界を認識する時には必要なのである。
だが、いったん心が消え去り、再び心が戻ってきた時、奇跡的な成果が達成されていたということがある。例えば、勝ち目の無い決闘を挑み、戦いが始まった後のことは何も憶えていないが、気が付いたら、相手が伸びていた・・・といったようなものだ。
そのような者は、まだ賢者ではない。賢者は、心の流れをちゃんと感じてはいるが、それと関わりを持たないのだ。心と身体は同じものである。だから、自分が行為者だという自覚もない。それが聖者の実態なのである。









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