昔、心理学者の岸田秀さんの本で読んだが、笑いの本質・・・つまり、人間が笑う重要な条件は「非日常」と「緊張が解けること」であるというのを見て「なるほど」と合点したことがある。
岸田さんが最初に例にあげていたのは、偉い人がバナナの皮で滑って転ぶと笑えるが、これは、偉い人がそんな失態をするのは非日常的であると同時に、見て緊張が解けるからである。
一方、偉い人でなくてもだが、銃で撃たれるというのは(日本では)非日常だが、緊張が高まるので笑えない。
安倍元首相やトランプ大統領(当時は前大統領)が銃撃された映像を見て笑うまともな人間はいないだろう。
バナナの皮で滑るにしても、滑った偉い人の関係者は、緊張が高まって当然笑えない。

石破総理がバナナの皮で滑って転んだら、もちろん笑えない人もいるだろうが、正直、笑う人が多いだろう。
バイデン前大統領が大統領就任から少し経った頃、大統領専用機エアフォース・ワンのタラップで転んだ時は笑った人が多いと思う。
大統領が転ぶ・・・それも、大統領専用機のタラップで転ぶというのは非常に非日常的で、しかも、(偏見かもしれないが)バイデンはあまり尊敬されていないので緊張が解けて笑えてしまうのだ。
一方、任期末期のバイデンが歩いていて転んだ時は、もう「よくあること」と認識されていたので、緊張は解けるが、それほど非日常的でないので、大して笑えなかったのではないかと思う。

岸田さんが取り上げた特殊な話が、「箸が転んでもおかしい年頃」だ。
これは、思春期の少女は箸が転ぶのを見ても笑ってしまうという意味だが、彼女達はなぜ笑うのだろう?
1つには、少女は感受性が豊かというのがある。
グーグルのAIは、その年頃を「高校生から大学1・2年生」としていたが、私には、もう少し年下のイメージだし、岸田さんも、中学生からせいぜい高校1年生位を想定していたと思う。
感受性という意味でも、中学生の方が高校・大学生より高いと思うが、岸田さんの説明では、女性として未成熟である必要がある。
まず、箸が転ぶことは非日常的と言って良いだろう。箸は転がすものではないし、転がすと困ることが多い。
そして、もう1つの笑いの要素「緊張が解ける」が重要だ。
ここで、女性の「14歳 VS 19歳」で考える。
14歳と19歳で、どちらが緊張しているかがポイントである。
彼女達が緊張する大きな要因が「男の目」で、露骨に言えば「性的欲望の目」である。
イエスが言った「女を邪(よこしま)な目で見るなかれ」という男の見方だ。
19歳だと、もちろん人にもよるが、男の目に慣れてしまっているし、男というものをそれなりに理解しているので、もうそれほど緊張しないだろう。
だが14歳の場合は複雑で厳しい。
彼女達は普段は子供扱いされているし、自分でも自分はまだ子供だと思っているが、美少女ほど大人の男の性的な好奇の目は感じており、それが強い緊張になっている。
そこで、「箸が転がる」といった非日常が起こると、一瞬、その緊張が解けて笑うのだ。

お笑い芸人は、こんな人間の笑いの特性を押さえておく必要がある。
駄目なお笑い芸人は、この理解がない。
その中で、抜群のセンスを持っているのが、とにかく明るい安村さんだ(「とにかく明るい安村」が芸名)。
まず、全裸であると誤解させることで、観客の緊張感を高める。
そして、パンツを履いていることを示して緊張を解き、大爆笑を得る。
パンツを履いていることを示しながら「安心して下さい、はいてますよ!」と言うのも人気だが、海外でも受けるのを見ても、このセリフは付け足しに過ぎない。重要なことは、あくまで緊張させて、それを解くことである。

オフィスの中で、こっそりパソコンやスマホでお笑いを見ている時、面白いものを見つけると、普段以上に可笑しくて、笑いを堪えるのに苦労するのも同じ原理だ。
オフィスの中で仕事をさぼってお笑いを見ているのだから、それがバレないよう非常に緊張している。それが解けてしまうのだから、可笑しさが倍増するのだ。経験上、それが分かる人は多いと思う。

ところで、何もないのに笑うことも、考えてみれば非日常的だ。
そして、緊張が解けた時に笑うことは、逆も成り立ち、笑うと緊張が解ける。
だから、特に緊張している時に笑うと緊張が解ける。
緊張していては引き寄せは出来ない。
意図的に笑うことは、リラックスして気分が良くなると共に、引き寄せも起こすのである。

◆当記事と関連すると思われる書籍等のご案内◆
(1)ものぐさ精神分析 増補新版(岸田秀)
(2)続 ものぐさ精神分析(岸田秀)
(3)なぜ日本人はいつも不安なのか 寄る辺なき時代の精神分析(岸田秀、町沢静夫)

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