嫌な現実を否定せず、ただ疑うことは楽しいものだ。
結果として、それだけで嫌なものが消えたり、本当は嫌でないと分かる場合もあるが、嫌なものを消そうとか、嫌だと思わないようになろうと思ってはならない。
ただ疑うだけだ。

ヨガ指導者だった藤本憲幸さんの27歳の時の初めての著書『秘法ヨガ入門』の一番最後に、藤本さんはなぜか20歳の不思議な青年のことを取り上げていた。自分を人類最高の超人で、釈迦、イエス以上と堂々と言う変わった青年だ。
そんな者を普通の人は笑うかもしれないが、藤本さんは何か感じたのだろうし、私も、この青年を只者ではないと思う。
藤本さんがこの青年に、ダイエットする時はどうすれば良いか尋ねてみた。
青年は、「自分はすでに10kg減って痩せていると思うこと。食事を制限したり、運動する必要はない」と言う。
確かにそうだが、青年は「静かでなければならない」と言う。今の人は「静か」を忘れていると。
どこまでも静かでなければならない。
だが、静かであるためには、思考が消えないといけない。普通の人にはそれが難しい。
だから、もう10kg痩せていると思っても、なかなかそれが信じられないのだ。

では、最初に上げた「嫌なことを疑う」ならどうだろう?
「本当は僕はすでに10kg痩せているのではないだろうか?本当はもうスリムなのではないか?」
「僕はすでに痩せている」では嘘だが、「僕はすでに痩せているのではないだろうか?」というのは、単に疑っているのだから嘘ではない。
疑うのは勝手だ。
思考が十分に消えているなら、「私は痩せている」と決めたり、本当に思考が消えれば、決めるまでもなく、痩せていることが好ましいことなら勝手に痩せる。
だが、疑うことなら、思考があっても差し支えなく、疑うことで現実が希薄になる。
元々が、現実なんて幻想だからだ。
それに、「私は痩せている」と無理に思おうとしたら、必死になってしまい、何度もそう思おうとしてしまい思考が強化されてしまう。
だが、「痩せているのではないか?」であれば、たとえ何度繰り返しても、むしろ思考が弱くなっていく。なぜなら、思考の元である自我の認識を疑うのであるから、自我は弱体化するのである。
理屈っぽくなってしまったが、とにかく、本当にうまい方法である。

以前、私が勤めていた会社で、私はある若い男に相談を受けたことがある。
彼は、「僕は皆に軽んじられている」と言う。
その日、出社した際、そこにいた社員達が挨拶してくれなかったことで、改めてそう感じたようだ。
私は彼に、「皆、忙しかっただけだ。別に君を軽んじているわけではない」と言ったが、彼は納得しない。
まあ、彼のメンタルが情けないものであることが問題だが、こんな者も多くなっているかもしれない。
また、もっと切実に、職場で自分が軽んじられているとか、馬鹿にされている、差別されていると思っている人もいるだろう。
そんな人に対し、「そんな職場なら辞めてしまえ」と言う者がいるようだが、そんなことをしても、次の職場でも同じことになる場合が多いと思う。いや、ますます軽んじられていると感じるようになるだろう。
彼に対する良いアドバイスは、やはり疑うことだ。
「本当に僕は軽んじられているのだろうか?本当は皆、僕に敬意を持っているのではないだろうか?」と疑うのである。
ただし、「敬意を持ってもらうために疑う」のではない。
もし、そんな考え方をしていたら、「疑っているのに、皆、僕に敬意を持ってくれない。辛い」と思うことになってしまうのだ。
だが、単に疑えば、世界という幻想を創り出している自我は幻想を維持出来なくなる。

デカルトは何でも疑った。
赤く見えるものも、本当に赤いかどうかは分からないことは少し考えれば分かる。
太陽は月と同じ大きさに見えるが、実際はそうではないようにだ。
そして、どこまでも疑問に耐えられる真実は、なかなかないことが分かった。
デカルトは、「単に本当らしいことは全て嘘」と断じた。
「疑いようもないほど明白なもののみ本当」としようとした。
そうしたら、全てが嘘であると分かった。
だが、最後に1つ、「疑っている自分の存在」だけは本当だと分かった。
デカルトの有名な言葉「われ思う、ゆえにわれあり」は、本当は「疑っているわれは確かに存在する」である。

普通は、良いことまで疑う必要はない。
しかし、嫌なことは疑うと良い。その嫌なことは間違いなく嘘だ。自分が本当にしない限りは。
疑えば、本当であることを装う嘘はぐらつき、ついには抜け落ちるのである。

◆当記事と関連すると思われる書籍等のご案内◆
(1)方法序説 (岩波文庫)
(2)秘法ヨガ入門(藤本憲幸)
(3)私は何も信じない ~クリシュナムルティ対談集~
(4)投影された宇宙 ホログラフィック・ユニヴァースへの招待
(5)ヒマラヤ聖者の生活探求 第5巻(ベアード.T.スポールディング)

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