前回、「自我(=心)を切り売りする」ことで、引き寄せの力を高める話をした。
実際は、魂を覆っていた自我の一部を消すことで、魂の力が発揮されるのだから良いことなのだが、こんな面もある。
仙道研究家の高藤総一郎さんの絶版で古書も高価なある本に、こんな話があった。
高藤さんは仙道の修行がかなり進んだ時、こんな声を聞く。
「この領域を超えたら、今のお前は死ぬ。一切の欲望や愛情がなくなり、家族や恋人も他人のように感じる」
高藤さんは、それはまっぴらと思い、修行を止めたそうだ。
金持ちにもなりたいし、いい女も欲しいというわけだ。
だが、それから高藤さんは、お金はどんどん入って来るし、いい女もどんどん寄って来て次々と付き合っていたそうだ。
おそらくだが、高藤さんも、自我の全部ではないが、自我の一部を消失したのだと思う。
私が昔(小学生の時だが)、それまで非常に好んだ食べ物を不意に全く好まなくなり、好きでたまらなかった女の子に不意に全く興味がなくなったように。

猫が好きでたまらなかった人が、猫が全く好きでなくなるかもしれない。ただ、その場合は、あらゆる動物を大切にするようになる。
米プロ野球の最高レベルのメジャーリーグ最後の4割バッターで生涯出塁率1位、2度三冠王を獲得(メジャー史上2人)したテッド・ウィリアムズの大切なものは、1番が野球で2番が釣り、3番が奥さんだったらしいが(笑)、彼の場合なら、釣りや奥さんが全く大切でなくなったり、さらには、野球がどうでも良くなることだってあり得る。
中島敦の『名人伝』では、天下一の弓の名人がそういった感じで、彼は弓を見て「何だか見覚えがあるが、これは何だろう?」と思ったのだった。
だが、それで彼は悟りを開いており、おそらく至福の境地にあり、実際は全知全能だろう。

インドの聖者ラメッシ・バルセカールは、「100万ドルか悟りを選ぶとしたら、100万ドルをお薦めする。悟りを開いたら、100万ドルを楽しむ自分はいない」と言ったが、100万ドルの方が良いかどうかはともかく、悟りを開いたら、確かに100万ドルは嬉しくも何ともない。
もっとも、100万ドル程度なら、自我の一部を切り捨てるだけで十分得られると思う。

問題は、私が知る範囲では、自我のどの部分を失くすのかを自分で選べないことだ。
ただし、最も良いものを選んでもらえるとは思う。まあ、それはあくまで高いレベルから見たらの話で、自分では納得出来ないかもしれない。
とはいえそれは、小学生の女の子が、とても大切にしていたリカちゃん人形を捨てるようなものだ。
いくら好きだったとしても、大人になってもリカちゃん人形を保管している人はいないし、いたら、それはあまり良いことではないかもしれない。

少し前、米IT大手のアップルの会長だったか社長だったか元CEOだったか忘れたが、甥の学費(アメリカの私立大学は年間一千万円くらいかかることがある)を残し、全財産を処分すると言ったが、そんな人は結構いる。彼らは大きな善意を持ったと言うより、本当にお金に興味がなくなったのだと思う。

そんな感じで良ければ、自我を切り売りする方法がある。

◆当記事と関連すると思われる書籍のご案内◆
(1)李陵・山月記(中島敦)※名人伝収録
(2)誰がかまうもんか?!(ラメッシ・バルセカール)
(3)仙道帝財術入門(高藤総一郎)

考える
AIアート1089
「考える」
Kay

  
このエントリーをはてなブックマークに追加   
人気ランキング参加中です 人気blogランキングへ にほんブログ村 哲学・思想ブログ 人生・成功哲学へ