昔ほどではないが、今でも、リカちゃん人形を知らない日本人はほとんどいないし、子供の時にリカちゃん人形を持っていた女性は多いと思う。
リカちゃん人形は1967年に登場し、ずっと子供用人形の販売のトップを走り、絶頂期の美少女戦士セーラームーンのセーラームーン人形がリカちゃん人形の販売を超えた際はニュースになったほどだ。

では、リカちゃん人形がなぜこれほど成功したのかというと、まずはその子供に見える可愛い外見のためだ。
アメリカのバービー人形がずっと先に販売されていたが、大人のバービー人形(設定17歳だが、アメリカの17歳は当時の日本では完全に大人)より、少女のリカちゃん人形が好まれたことは間違いなく、そもそも、バービー人形はあまり人気がなかった。
しかし、リカちゃん人形がヒットしたら、真似をする企業も多いはずで、実際、沢山のライバルが登場したと思う。
だが、リカちゃん人形は勝ち続けた。
その理由は何かというと、特徴がないことだと思う。
リカちゃん人形は、設定が小学校5年生の11歳で、母親が日本人で父親がフランス人のハーフ、その他、一応の設定はあるが、趣味がお菓子作りといった平凡な設定のみで、そもそも、基本的な設定を知っている人すら、所有者の女児を含め、ほとんどいない。
このように、強いキャラクター付けをしなかったことや、外見上の特徴も非常に弱いことが成功の要因と思う。

リカちゃん人形と同じ理由で成功したのは、キャラクターとしての初音ミクだ。
初音ミクは、16歳で身長158cm、体重42kg、長い青緑のツインテールという以外の設定はない。
世界的音楽家の冨田勲さんが、脳科学者・物理学者の小泉英明さんとの対談で、「初音ミクは平均的な外見」と言い、小泉さんが言ったかどうか覚えていないが「一番の美人は実は一番の平均顔」という事実が示された。
逆に、外見の個性が強いと、一時的に好まれることはあるが、抵抗を感じる場合が多く、あまり人気が出ないし、人気が出ても長続きしない。
SNSで、青いホースが少しツインテールに見える画像がアップされ、投稿者が冗談で「初音ミク」と言っていたが、実際、それだけで初音ミクを連想させる。それだけ初音ミクに特徴がないからである。
また、大正10年に告知された千葉市の市章は「どう見ても初音ミク」と言うのもうなづける。
sisho_green



初音ミクは、音楽だけでなく、イラストも重要なアートになっているが、初音ミクほど多く描かれたイラストはないと思われるのも、やはり特徴がないことの効果が大きい。
髪を青緑の長いツインテールにさえすれば初音ミクで通ってしまう手軽さがある(人気が出てからは必ずしもツインテールである必要もなかった)。
しかも、初音ミクは、非営利で常識的な表現である限り、著作権者であるクリプトン・フューチャー・メディア社の許可を得ずにイラストを発表して良いなどもあり、圧倒的に多くの作品がネット上で投稿されるようになった。
ボーカロイドキャラクターとしては、後から出た1stPLACEのIA(イア)も初音ミクのように無許可でイラスト投稿が許可され、さらに商用利用さえOKという、つくよみちゃんプロジェクトのつくよみちゃんが登場し、いずれも優れたデザインであると思うが、かなりの絵心がなければIAやつくよみちゃんと認識出来るように描くことは難しい。

そもそも、人間のアイドルだって、昔から、人気が出るのは個性派ではなく無個性で、ある意味平凡な人だ。
また、パソコンだって、マイクロソフトが大成功したのは、マイクロソフト成功の要因であるパソコンOSのMS-DOSやWindowsが、実は全く個性がないことで、パソコンにおいては個性派のマッキントッシュは一般には好まれなかった。
スマートフォンで人気のアイフォンだって、熱心なファンでも、「どこがいいのか?」と聞かれて明確に答えられる人を見たことがなく、せいぜい「効率が良い」「芸術的だ」といった曖昧な返事をする。

MIKU
AIアート506
「MIKU」
Kay


だが、やはり冨田勲さんが言ったように「初音ミクは平凡だが1つの流れがある」のである。
いわゆる「奇をてらう」ものは決して成功しない。
だが、平凡なだけでも駄目だ。
「何か」が必要であるが、それは数字とか形とか色では示せないものだ。
『サウンド・オブ・ミュージック』という映画の『自信を持って(I have confidence)』という歌で、「強さは数字じゃない。強さは力じゃない。強さは平和な眠りのよう」と言っていたのが、ちょっと良いヒントだろうと思う。
自由で冷静な善意があり、排他的でなく創造的である。
そんな初音ミクの特徴のない特徴が世界を救うかもしれない。

◆当記事と間接的に関連すると思われる書籍のご案内◆
(1)自己信頼
(2)富と幸福の探し方
(3)コンテンツの秘密 ぼくがジブリで考えたこと
(4)初音ミクはなぜ世界を変えたのか?
(5)アート展「初音ミク・クロニクル」 公式ビジュアルブック
  
このエントリーをはてなブックマークに追加   
人気ランキング参加中です 人気blogランキングへ にほんブログ村 哲学・思想ブログ 人生・成功哲学へ