運動をする必要を感じた時、手軽に始められるものとしてウォーキングを選ぶ人は多いと思う。
これなら、老齢だったり、虚弱だったり、肥満していたり、その他の理由で、一般的なスポーツが出来なくても、なんとかやれる場合が多いだろう。
そして、ウォーキングは中々あなどれない効果的な運動で、これだけでも健康を維持し、立派な身体を作ることが出来る。

もし、やることが可能で好きなら、ダンスは極めて素晴らしい運動だろう。
また、ガーデニングが趣味なら、これは本来は運動でないに関わらず、良い運動になる。
いや、掃除や部屋の片付けを真面目にやれば、食べ過ぎない限り、太っている暇もないほど立派な運動が出来る。

そして、DIYというものを考えると、目が開けるかもしれない。
DIYとは、Do It Yourselfの略で「自分でやる」という意味だ。
人間は幼児期を過ぎたら、「自分のことは自分でやる」のは当たり前だ。
それが出来れば、一応は立派な人間と言えるが、大きく飛躍することは出来ない。
そこで、これまで人任せにしていたことや、お金を払ってやってもらっていたことでも、自分に出来ることであれば自分でやってみると、これが、肉体と頭脳の、何とも素晴らしいトレーニングになることが解るのである。
DIYによって、大袈裟でなく革命が起こるのだ。
DIYは元々、第二次世界大戦でナチス・ドイツに町を破壊されたロンドンの人々が、自分達の手で町を復興させようとして掲げたスローガンだった。
「何でも自分でやろう」という心構えである。
これがやがて、ヨーロッパ全土に広がり、そして、アメリカに伝わり、さらに、世界に影響を与えた。

現在の、新型コロナウイルスの流行に対しても、DIYは、人類が持つべき、素晴らしい心構えであるはずである。
DIYこそ、「汝自身を知れ(身の程を知れ)」と並ぶ神託かもしれないと思うほどだ。

もちろん、素人作業では危険な場合もあるので、注意深く行わなければならない場合もあるが、そんなこと(危険なことをやるかどうかの判断や、危険かもしれないことをやること)ほど、思考能力を高め、細かく気配りし、専門能力の素晴らしさを知る機会でもある。
これまではプロに頼んでいた修理も、完璧とは言えなくても自分で十分にやれる場合も多いだろう。
昔、竹村健一さんが学生の時、ある世界的に有名な人物が、メガネの柄が折れたので何とかして欲しいと周囲の人に言ったが、誰もが困惑して何も出来ないのを見たらしい。
そこで、竹村さんは、メガネを受け取り、折れた柄をガムテープで巻いて渡すと、その偉大な人物は「ベリー・グッド」と言って満足した。
竹村さんは、若い時からDIY精神を持っていたのだが、この話によって、「プロのような完璧を目指さなくて良いから自分でやれ」と教えてくれているのである。

コンピューターは、昔は、専門家しか触れない畏れ多いものであったが、1970年代にマイコンと呼ばれた小さなコンピューターが作られて一般に販売され、ビル・ゲイツがマイコン用のBASIC言語を作って、誰でもプログラミング出来るようにした。そして、マイコンがパソコンに進歩すると、素人がプログラミングしてソフトを作り、それが十分に実用になった。
今では、マイクロソフトExcelに内蔵されたVBAというプログラミング言語を使えば、プログラミングの専門家に頼らなくても、自分でプログラムを作り、業務効率を飛躍的に高め、結果、生産性を劇的に向上させることも多くなってきた。

私が来月4月に出版する予定のAI書『楽しいAI体験から始める機械学習』(技術評論社)は、AI(ディープラーニング型)を、DIY精神で「自分で作ろう」と勧めるものである。Excelが使えればAIは自分で作れる。よろしければ、この本を使い、自分でAIを作ることに挑んでいただきたいと思う。
このように、DIYは、身体、頭脳、心、生活、そして、仕事に革命を起こし、大袈裟でなく、人類を向上させる鍵である。
子供のために親がやっていたことで、子供にも出来ること、そして、子供が自分でやることにより、子供を大きく進歩させるものが沢山あるはずだ。
それなのに、子供が自分でやらないといけないことまで、親やその他の者がやってしまっていることが多いのではあるまいか?

病気や健康に関しても、医療まかせにしていたら、殺されたり不具にされてしまう危険があると言っても、そこらに実例があるので否定出来ないと思う(私の家族にもあった)。
無論、必要なところでは医者を頼ることも必要かもしれないが、頼るべきでないことまで医者まかせにしている場合が多くはないだろうか?
自分の身体は自分で責任を持ち、賢く世話をすべきであろう。
まずは、座っていることが多ければ、なるべく立つだけで立派な運動であり、健康を維持向上させることが出来る。
そして、「自分に出来ることは何だろう?」と考えることで、賢くなり、もしかしたら、大きな仕事が出来るようにもなるだろう。

SF小説『BEATLESS』で、得たいの知れない巨大な敵を前にして怯むアラト(17歳の高校生男子)は、レイシア(美少女の姿の高度なアンドロイド)が、「今戦わなくていつ戦うのですか?」と言われて心に変化を起こし、「何も出来ないわけじゃない」と気付いて行動を起こした。
そんなことが我々に必要である。