パナソニックが昔、松下電器産業という会社名で、松下幸之助という人物が起こしたこと、ブランド名が「ナショナル」であったことを知らない人も多くなってきたと思う。
松下幸之助は小学校も出ていないが、経営の神様と讃えられ、日本の経済とテクノロジーの発展に大きな貢献を果たした歴史的人物と言えると思う。
松下電器は、日本の高度経済成長に乗じて発展したのだが、高度経済成長と言っても、伸びるばかりでなく、様々な要因で不況になることもあった。
電器機器産業というものは景気の影響を受け易く、訪れた大きな不況の中で、松下電器も経営の危機に陥ったことがあった。
その中で、松下電器の幹部は、松下幸之助に社員のリストラを要求したことがある。このまま社員を抱えていたら、倒産を免れなかった。
だが、松下幸之助は決してリストラを行わず、「仕事がなければ掃除をやらせておけ」と言ったという話がある。
そして、不況の中でも、松下電器は急速に業績を回復し、さらに、これを教訓とした経営安定のための手法も生み出した。

この掃除であるが、「仕方がないから掃除を」と言うよりは「こんな時にこそ掃除が良い」という意味ではないかと思う。
だが、多くの会社で「掃除が大事」と言って、社員に強制的に掃除をさせているが、これはどうかと思う。
掃除をして楽しければすれば良いのであり、楽しくないならしない方が良い。
だが、会社でも個人でも、悪い状況にある時は、掃除をするのは良いことである。
多くの人が、特に理由もないが、ものごとがうまくいかなかったり、辛い状況にある時に、家の掃除をしたり、門のペンキを塗ったり、靴やカバンといった日用品の手入れをする。
本人としては、それらが気分を変えることになると思うのだろうし、実際に、良い気分転換になる。
こういったことをする人は賢い人だ。
こんな健全な気分転換は、実際に状況を変える。
なぜそうなるのかは、これまでは、あまり考えられなかったし、考えても分からなかったが、気分というか、感情というものが世界を動かすということを、人類は理解しつつある。
一方、愚かな人間は、気分を変える必要は感じるのだが、そのために、大騒ぎしたり、美食をしたり、酒を飲んだりといった、快楽を感じることをする。
そういった、ストレス解消的なことは、かえって状況を悪くする。
なぜなら、ストレス解消は、快楽によって、嫌なことを忘れたいと望む行為なのであるが、快楽を貪るほど、悪いことに意識を向けることになるからである。
例えば、酒を飲みながら、「あいつなんかどっかにいっちまえ!」と言って、楽しいはずの酒が、嫌なやつのことを思い出すエネルギーになってしまうのである。
だが、人間は繊細なことには集中するので、 掃除や、その他の細かい手作業をすれば、 悪いことからフォーカスを外すことが出来るのである。

昔の『新世紀エヴァンゲリオン』のテレビアニメで、人類の危機という状況で、加持リョウジ(かじリョウジ)はスイカに水をやっていて、シンジを驚かせるが、これは、案外にというか、優れた問題解決法なのである。
加持は「葛城の胸の中もいいが、最後はここに居たい」みたいなことを言うが、加持は決して諦めていなかったのだろうなあと思う。
あの時、人類を救ったのは加持であった。