正しいスクワットのやり方と言われたら、こんなやり方を思い浮かべるのではないだろうか?
腕を胸の前でクロスさせ、上体を真っすぐに保ち、膝が床と平行になるまで膝を曲げる。
あるいは、膝を曲げながら、伸ばした腕を前に上げていき、膝と床が平行になったところで、腕は真っすぐ前に伸びた状態になる。これも、このようにやれば、上体を真っすぐに保ち易いからである。
もっと簡単には、手を頭の後ろで組むと、背中が丸くならないので、後は、自主的に、上体を真っすぐに保ったまま、スクワットを行う。
この3つのやり方は全て、上体を真っすぐに保つことで、脚に最大の負荷をかけることを目的としている。
つまり、「楽しちゃいかん」「楽したら効果が落ちる」というわけである。

しかし、脚に最大の負荷がかかるということは、最も効率が悪い身体の動かし方であるということだ。
だから、まさか、日常の動作や、身体を使った作業、人間や動物との格闘といった中で、立ち上がる時、そんなふうに、上体を真っすぐに保って立つようなことはしない。
出来るだけ、力を使わず、楽に立つはずであり、力が不要だからこそ、必要なら、素早く立つことが出来る。
けれども、「正しいスクワット」は、効率の悪い、疲れ易い(エネルギーを多量に消費する)、素早く動けない身体の動かし方を、身体に憶えさせるものなのである。
言ってみれば、戦って殺され易い身体の動かし方を、身体に叩き込んでいるのである。
また、これは、足腰を壊し易く、腰痛や膝痛になるリスクが高い動き方である。
説明は省くが、「正しい腕立て伏せ」も同じである。
もちろん、格闘技の選手などは、技を知っているので、「正しいスクワット」「正しい腕立て伏せ」をやっていても勝つ動きが出来るが、やはり不合理な動きなので、筋肉のない古武術家に軽くあしらわれてしまうことがあるのである。古武術では、身体の合理的な動きを習得するからだ。

古武術家は、歩く時ですら、楽で効率の良い、疲れない歩き方をする。
これも、ウォーキングで筋肉や心肺を鍛えるという発想とは真逆である。

プロレスラーのトレーニングに、ヒンズースクワットというものがある。
これは、腕を前後に振りながらスクワットを行うもので、しゃがんだ時に、腕は一番後ろにあり、腕を前に振りながら、脚を伸ばすのである。
腕を前に振っているとは言っても、実際は、上に振っているのであり、立ち上がった時、手は一番上にあり、その時、肘は曲がっている。
なぜ、こんなふうにやるのかというと、まず、腕を前に振ることで、上体が真っすぐになるということがある。
同時に、腕を上に振る反動で、下に力が加わり、体重が少し重くなって負荷が増えるのである。
強く上に振るほど、脚の負荷は大きくなるのである。
これも、筋肉を鍛えるという意味では効果的であるが、動きとしては非効率で、そんな非効率な動きを身体に憶えさせてしまう。
ルール無用の喧嘩や動物との戦いの中で、立ち上がる時、腕を上に振ったりはしない、振るなら下に振るはずである。

だから、スポーツ選手や格闘技選手でない我々がやるべきスクワットは、脚を伸ばす際に、下に振るようにしなければならない。
それにより、身体に、効率の良い動きを覚えさせるのである。
具体的に書くとこうだ。
両足を平行に、肩幅の広さに開く。
やや肘を曲げ、両手を少し上に(みぞおちのあたりまで)上げる。
膝を曲げながら手を下に振り、膝をわずかに曲げたらすぐに伸ばし、手を振り下ろし終わった時には、膝は伸ばし終わっている。
膝を曲げた時、腰が沈むのは、せいぜい10cmくらいまでである。
ゆっくり行うが、調子が出てきたら、素早く動いても良い。
手を下に振る反動で、少し体重が軽くなると共に、手足が連動した効率の良い動きなので、非常に楽である。
このように楽な運動なので、100回以上は行いたい。慣れれば、1000回でも2000回でも行う。
数多く行う程、効率的な動きが身に付き、インナーマッスルが鍛えられ、実用的に強くなると共に、無駄な肉が取れるはずである。
これもまた、手と足を連動させて効率よく動くナンバの応用で、ナンバスクワットとでも呼びたいと思う。