子供の時、映画などでたまたま聴いたセリフをいつまでも憶えていることがないだろうか?
例えば、私には、こんなものがある。
「攻撃こそ最大の防御なり。最大の攻撃とは無抵抗なり。つまり、何もしない者が一番強いんだ」
イギリス貴族の男が祖父から聞いた話という設定だったが、どれくらい真面目に言ったのかは不明だ。
まるで、禅の公案だが、これが禅の公案であれば、答を出さないといけない。
なぜ、無抵抗が一番強いのか?

このことで私は、昭和天皇の玉音放送の有名な言葉を思い出す。
「堪え難きを耐え、忍び難きを忍び」
これはつまり、「これから無抵抗な日々を送る」ということだ。
そして、日本人の大半が天皇の言葉に従い、抵抗しなかった。
天皇も、マッカーサーに抵抗しなかった。
そうしたら、その後は勝ち続けた。
日本も、ドイツや朝鮮のように分割されて当然のところが、なぜかアメリカ一国の支配となり、そのアメリカの手厚い保護を受けて発展の一途を辿った。
これは無抵抗の勝利である。

マハトマ・ガンジーのポリシーを「無抵抗主義」と言うのは誤りで「非暴力主義」だと言う人もいるが、まあ、無抵抗主義と言っても、そう間違いではないと思う。
とにかく、それで様々な意味で勝利を収めたのだ。
ガンジーが『バガヴァッド・ギーター』を愛読していたことはよく知られているが、『バガヴァッド・ギーター』では、クリシュナ神はアルジュナ王子に戦うことを要請している。
ただし、それは、アルジュナが戦う運命にあったからだ。
一方、ガンジーは戦う運命になかった。
ガンジーが抵抗しなかったのは、何よりも運命に対してである。

そして、何もしないことの強さを最も肯定するのが、老子、荘子の「無為自然」だ。
これも、つまりは、運命に対して逆らわないことだ。
だから、荘子は「思慮分別、是非好悪を捨て、なりゆきにまかせよ」と言うのだ。
かといって、老子も荘子も、怠惰になることを奨めている訳ではない。
そもそも、老子は君主の道を説いているのであり、その中には、当然、戦争も含まれている。
つまり、クリシュナ同様、戦うのが運命であれば戦うべきなのである。
巡音ルカさんの人気曲『Just Be Friends』(作詞作曲編曲はDixie Flatlineさん)にある歌詞、
「分かってたよ 心の奥底では 最も辛い 選択がベスト」
のようであることに、幸運が潜んでいる。
耐え難きを耐え、忍び難きを忍ぶことがベスト、あるいは、唯一の道かもしれない。
そして、それは案外に気分が悪いことではないのだ。
つまり、感情よりも奥深い感覚に従うということだが、それは、意外にも安らぎを感じさせる。
泣き叫ぶ心を無視し、内なる予感に従えば、予想外の奇跡も起こる。
つまり、「神様の奇跡が起こる」って唱えればいいってことだし、やはり、この言葉の力が分かるのである。