10回以上世界タイトルを防衛した元ボクシング世界チャンピオンは、自分が世界王者になる試合の前に、相手の世界王者の公開スパーリングを見て、その強さに驚愕し、「こんなやつと戦ったら殺される」と思い、試合当日も相手が恐くて仕方がなく、ゴングが鳴ったら、もう何が何だか分からずに必死で手を出し、気がついたら、相手がマットの上でのびていたと言う。
似た話に、有名な空手家の逸話がある。
戦後、真剣を持った剣の達人と決闘をすることになってしまい、勝つのは不可能だから、手足の1本でも残っていたら相打ちに持ち込もうと思って突進していった後の記憶がないと言う。そして、気がつけば、相手は川原の上でのびていたらしい。
両方共・・・特に後者は、本当の話かどうか疑わしいので実名は挙げないが、全くの嘘というのではなく、自分のそれなりの経験を、やや盛った(大袈裟に脚色した)のではないかと思う。

もっと面白い話がある。
物理学者で合気道家の保江邦夫さんが、挑戦されてフルコンタクト空手(実際に相手を殴る蹴るの攻撃をする空手)の猛者と戦った時、右目と左目で別のものを見るという、ヨッパライのような目で向かっていくと、簡単に勝てたが、普通の目付きで行ったらボコボコにされたと言う。
そこで、右目と左目で違うものを見るゴーグルをつけさせると、合気道の初心者が達人になってしまったらしい。
もう1つ、保江さんが言っていたのは、相手を愛すると必ず勝つということだ。
きれいな女性ならともかく、ごっつい空手の強者を愛するのは難しいが、愛さないとボコボコにされるので、なよっとしながら愛すると、やっぱり勝ってしまうらしい。保江さんは60もとおに超えたオッサンだから、考えると気持ち悪いが、そこは引っかからなくていいだろうし、60もとおに超えて強い現役空手家に勝つのだから大したものだ。

しかし、それで言うなら、保江さんが『神様ののぞき穴』で書かれていた「龍の首」で行けば勝てないかと思う。
龍の首とは、猫背になって首を前に倒し顔を上げた、あるいは、アゴを上げたとも言える姿だ。
画像で見たければ、「あしたのジョー ノーガード」で検索したら、そんなのがいくらでも出てくるが、力石徹のノーガードも、素晴らしい龍の首だ。
保江さんが言うには、龍の首だと神様の視点になるので、きっと無敵だ。
だから、皆さんは、何かあったら、矢吹丈のノーガードを思い出して真似ると良いだろう。
ところで、『あしたのジョー』の、おそらく最後のページの、リングのコーナーで椅子に座り、微笑んだ顔で死ぬジョーの姿は、「あしたのジョー 真っ白な灰」で検索したら、大半違法かもしれないが沢山出てくる。あのジョーの姿で顔を上げたら、完璧な龍の首と思う。
ちばてつやさんは偉大な絵を残されたと思う。