子供の時から1つの夢を追い求めて、その夢を実現させたという話は印象的なので、人々の記憶に残り易いが、それは極めて少ない。
大きな成功を収めた人だって、その成功したことは、2番目か3番目にやりかたかったことだったり、それどころか、元々は自分がやるとは考えてもいなかった分野だということも珍しくはない。
偶然の出来事から、たまたま取り組んだことで成功するというのが、案外に多いものだと思う。

世界を股にかけるビジネスマンだったアメリカのアーマンド・ハマーだって、本当は医者になりたかった・・・いや、実は、ちゃんと医大を出て、医学博士にもなったが、旧ソ連に行った時に、フルシチョフ書記長に、ソビエトでビジネスをやってくれと言われてビジネスマンになったのだ。
アルベルト・シュヴァイツァーは、音楽家、学者で成功したが、30歳の時、たまたま見たパンフレットで、アフリカでは医療サービスを受けられず命を落とす人が多いことを知り、医大に入って医者になってアフリカに行った。彼の場合は、音楽家などで成功して作った資産が多いに役に立ったが。

ハマーやシュヴァイツァーらのような超大物でもそうなのだから、小規模の成功であれば、ほとんどが、たまたまやったことでうまくいったと言って差し支えないと思う。
さらに、それほどやりたくなかったことで成功してしまった場合も少なくないはずだ。

つまり、どういうことかというと、ちょっとした願いも否定しないことだ。
ジョセフ・マーフィーの本に、こんな話があった。
ある若い女性が、女優になることを夢見ていた。
それを聞いたマーフィーは、その女性に、子供の夢からは卒業するように言い、その女性も、その忠告を受け入れ、実務の勉強をして会社勤めを始め、その会社の若い社長と結婚したらしい。
しかし、彼女が、女優になりたいという夢を持っていたから、そんな流れにもなったのである。
そもそも、女優になりたいからやったことの中には、良いこともいっぱいあったはずだ。
私など、二十歳くらいまでになりたかったのは、一貫してプロレスラーで、それは、マーフィーに言わせれば子供の夢であるが、おかげで楽しかったし、身体も鍛えたし、いろいろなことを知ることが出来て、良い面が多かった。
プロレスラーになるという妄想を持っていたから、高校受験も大学受験も、どうでも良かったので、何も心配しなかった。
イエスが「明日を思い煩うな」と教えたが、まさにそれをしっかりとやっていたのだ。
あのエマーソンすら、経済的な心配のない少年・・・つまり、親がちゃんと面倒を見てくれている少年達に、本質的に優れたものがあることを認めている。
これは、家が裕福でなくてはならないということではなく、どんな状況でも、明日の心配をしないことが良いのである。
私も、経験的にも、何も心配しない、極楽とんぼの時が最もうまくいっていたように思う。

IAさんの歌で、天才、じん(自然の敵P)さんの作品である『Inner Arts』に、こんな印象深いフレーズがある。

君の感性が刻む ビートを貫けば
間違った選択も 翼になるのさ
~『Inner Arts』(作詞・作曲・編曲:じん。唄:IA)より~

小さいビートでも良いと思う。
間違った選択も、どんどんすれば良いのではないか?
世の中では、「大きな夢を持て」なんて言うが、そんなもの、なかなか持てるものではないし、超大物だって、そんなもの、ついぞ持たなかった場合の方が多いはずなのだ。
メジャーリーグ・ベースボールの歴史の中でも屈指のバッターだったテッド・ウィリアムズは、確かに、少年の時から1日中と言えるほどバッティングの練習をしていたが、別に、三冠王になるぞとか、4割打者になるなどという夢を持っていた訳ではなく(両方とも達成したが)、単に、バッティングが好きなだけだった。
そして、それほどでなく、ちょっと好きなことでも、それは貴重なものなのである。
「作家になりたい」と言えば、馬鹿にされるかもしれないが、「ちょっと作家になりたいとも思う」なら全然OKだし、本当の作家も、その程度で作家になったのだと思う。
「人々の魂を揺り動かす作家になる」なんて言う者は、ただの妄想で終わる場合が圧倒的なのである。

ウィリアム・スミス・クラーク・・・いわゆるクラーク博士の、
「Boys, be ambitious(少年よ、大志を抱け)」
という言葉が有名だが、これは、実際は、「がんばれよ」程度の意味でしかなかった(そもそも言っていないという説が有力なのだが)。
クラークは、カルロス・ゴーンと同じ3月9日(ミクの日)生まれだから、2人共素晴らしい人だと信じたい。
「でっかい夢を持て」なんてのは、人間を分かっていない者のセリフかもしれず、教育者としては問題と思う。
むしろ、小さなインスピレーションを大切にすることだ。