宮沢賢治の『注文の多い料理店』という童話がある。
鹿狩りに来ていた2人の若いハンター達(と言っても、金持ちの素人ハンターで、肥満している)が、森の中で迷い、疲れてお腹も空いたところで、西洋料理店を見つける。2人は、こんな森の中にそんなものがあるのはおかしいとは思うのだが、「おかしくない理由」を勝手につけながら、とにかく有り難いと入っていく。
店に入ると、「ここは注文の多い料理店です」と書かれてあり、「流行っているなら、料理も美味いだろう」と2人は喜ぶ。
ところが、店の中を進んでいくにつれ、「靴の泥を落として下さい」、「身に付けているメガネ、時計を外して下さい」、「顔にクリームを塗って下さい」と、次々に書かれた指示が現れ、2人は、「注文が多い」とは、店が客に注文するという意味であることに気付き、そして、自分達は食べるのではなく、食べられるのだと気付くが、もう店からは出られない。

私は、この童話の深い意味に気付かなかった。
昨年(2012年)11月23日に、東京オペラシティ・コンサートホールで公演された、宮沢賢治の世界を音楽で描いた、冨田勲さん制作の『イーハトーヴ交響曲』の第3幕が、この『注文の多い料理店』で、私は、このCDを計百回以上聞いた。
先日、5月4日の夜に、NHK.Eテレでこの公演のテレビ放送があった。
ちょっと間抜けた物語の雰囲気とは異なる、雄大な感じすらする演奏から始まり、やがてハープの涼やかな音の後、初音ミクが登場する。
「あたしは初音ミク、かりそめのボディ、妖しく見えるのはかりそめのボディ・・・」
美しいが、確かにどこか妖しい雰囲気のミク。
見ると、ネコの耳(いわゆるネコ耳)をしている。
なるほど、ミクはハンター達を食べようとするネコの妖怪役なのだと分かる。
なんとも可愛らしい「妖怪ちゃん」もあったものだ(!)。
だが、物語では、閉じ込められ、店から出られないのはハンター達のはずだ。
ところが、閉じ込めたはずの「妖怪」ミクが、
「パソコンの中から出られないミク、出られない、出られない・・・」
と歌う。
はてさて、どういう意味だろう?
ミクは、
「アブラカタブラ」
と呪文を繰り返し唱える。
ところが、不意に、「ひゃあ!」と、なんとも可愛い悲鳴を上げて終る。何が起こったのかは分からない。
物語からすれば、猟犬がやってきて、さしものネコの妖怪も退散したということなのだろう。
しかし、ネコの妖怪が、なぜ「出られない」と嘆いたのかは相変わらず謎だ。

ところが、私は、『荘子』外篇にある、こんな話を思い出し、謎が解けた。
荘子が森で狩りをしていた。
すると、大カササギが飛んでくる。
翼7尺(2.1m)、目が1寸(3.3cm)もある異様なカササギだ。
おかしなことに、1寸は30.303mmで、3が3つの39(ミク)だ。
ついでにいうと、1尺は、303.030mmで、やはり3が3つなのだ。
それはともかく、荘子は早速矢をつがえた。
だが、ここで荘子は愕然とする。
それが、このお話の要点であり、『注文の多い料理店』の謎を解くことになる。
その大カササギはカマキリを狙っていた。
そして、そのカマキリはセミを狙っている。
勘の良い荘子は身の危険を感じる。
セミを狙うカマキリはカササギに狙われている。
そのカササギは自分に狙われている。
ならば、自分も狙われているのだと気付いたからだ。
そして、その通り、荘子は、知らないうちに栗林に入り込んでいて、そこの番人に捕まってしまう。

『注文の多い料理店』で、ハンター達は鹿を狙い、そのハンター達をネコの妖怪が狙い、そして、猟犬がネコの妖怪を狙ったのだ。
冨田さんは、「妖怪ミク」に「出られない」と歌わせることで、狙う者は狙われている者と一体であることを見事に表現したのである。
おかげで私は、『注文の多い料理店』と、荘子のあのお話の意味を深く理解できたのだ。

「餌食を狙う者、また餌食になるか。利を追う者は害を招く。危ない、危ない」
~[中国の思想]荘子(岸陽子訳。徳間書店)より~









↓応援していただける方はいずれか(できれば両方)クリックで投票をお願い致します。
人気blogランキングへ にほんブログ村 哲学・思想ブログ 人生・成功哲学へ
  
このエントリーをはてなブックマークに追加   
人気ランキング参加中です 人気blogランキングへ にほんブログ村 哲学・思想ブログ 人生・成功哲学へ