シンデレラ症候群(シンデレラ・コンプレックス)という言葉は時々聞くが、醜いアヒルの子症候群(醜いアヒルの子シンドローム)という言葉もあるようだ。
(シンデレラ・コンプレックスは、「シンデレラ・コンプレックス症候群」「シンデレラ・コンプレックス・シンドローム」と言うのが正しいと思う)
いずれも、「今は駄目だが、いずれは・・・」といった願望が強い人のことと思う。

『シンデレラ(サンドリヨン。灰かぶり姫)』は、古い伝承を、ペローやグリム兄弟が取り上げて広めたものだが、『醜いアヒルの子』は、アンデルセン個人の創作だ。
そして、『シンデレラ』は、正直、許容出来るレベルの理不尽と言ったら怒られそうだが、本当に不幸な少女達の中では、シンデレラはかなりマシで、本当の人生の苦しさを知る者から見れば、「あんなん普通や」となるかもしれない。
また、シンデレラが成功したのは、彼女が稀に見る美少女だったからだし、魔法使いの力を借りることが出来た点が大きい。
だから、シンデレラ・コンプレックスを患う者は、やや「おめでたい妄想家」という雰囲気がなくもない。

だが、醜いアヒルの子症候群は、ちょっと深刻だ。
シンデレラは不幸な時から美少女だった。
しかし、醜いアヒルの子には美点が全くない。
『醜いアヒルの子』に強く感情移入する者もそうで、そんな者達は本当に苦しく、夢にすがるようなところがある。
しかも、これは作者のアンデルセン自身の物語がベースであるので、リアリティや希望を感じられてしまうのである。
「自分は、今は誰からも認められず、力もないが、本当は白鳥なのだ。いつかは才能を発揮し、誰もが称賛、さらには、羨望する存在になる」
と思うことで、やっと辛い今を生きる悲しい人達。
なぜ、「悲しい人達」と言ったのかというと、そんな人達が本当に白鳥になることは、まあ、滅多にないからだ。
そして、醜いアヒルの子症候群を患った者は、自分は白鳥にはなれなくても、大人のアヒルになれればいいという悟りの境地に至ることが出来ず、いつまでも・・・もしかしたら、死ぬまで醜いアヒルの子症候群でいるかもしれない。

ビートルズの『エリナー・リグビー』という歌がある。
エリナー・リグビーは、残飯をあさる貧しい老婆だが、ボロボロのドレスに、ありったけの宝石(偽物だろう)を付けて王子様を待ち続けている・・・そんなひどく惨めな老婆だ。
彼女は、シンデレラ・コンプレックスといった幸せな者ではなく、生涯、醜いアヒルの子だった。

アンデルセンは確かに、かつては醜いアヒルの子だった。
14歳で故郷のオーデンセの村を出て、首都コペンハーゲンに出た時は、まさに、醜いアヒルの子以外の何者でもなかった。
舞台俳優志望で、歌も練習していたが、やっと演劇関係の人の前で歌を披露する機会が出来た時、アンデルセンの歌を聴いたその人は、アンデルセンは気が狂っているのではないかと疑った。そのくらい、下手というよりは向いてなかった。
そんな少年アンデルセンは、幸運ななりゆきで学校に、そして、大学にまで行けたが、苦難の学生時代だった。
だが、アンデルセンは天才だった。
彼は自伝で、「神の加護により幸福な人生だった」と書いている。
確かに、彼は容姿が醜く、結婚はおろか彼女の1人も出来たことはないし、作品が広く海外にまで知られるようになっても、当時の出版業界の事情もあり、富には無縁だった。
それでも、国家から、多くはないが年金をもらい、働く必要がなく、外国旅行に明け暮れた。
何より、多くの人に称賛されていることで満足感があったのだろう。
ある時期までは、アンデルセンは、作品は知られていても、彼自身は誰からも褒められなかった。
しかし、ある日、学生たちが集って彼を称賛した時、彼は気絶するほど感激したというから、彼は本当に、今でいう承認欲求に飢えていたのだろう。

そんな彼が、達成感と、そして、多分だが、世間の理不尽さへの恨みも込めて『醜いアヒルの子』を書いた。
そして、これを読んだ多くの凡人が、「自分もいつか」と思いながら、結果、多くの場合、良くても虚しく諦め、悪ければエリナー・リグビーになった。

私やあなたは醜いアヒルの子だろうか?
その通りと言うのは、あなたを騙して儲けたい、詐欺的な新興宗教の教祖やセミナー講師のような者達だろう。
そして、重要なことを指摘すれば、アンデルセンだって、成功したのは「たまたま」で、たとえ天才とはいえ、彼だって本当は高確率で醜いアヒルの子のまま一生を終わっていたのだ。
才能があるからといって成功するほど、この世は天国ではない。
だが、白鳥になることが本当の幸福ではないことに気付けば、鷹になれる。
鷹になって、悠然と空を飛ぶ境地になれる。
その姿には、白鳥も羨むことだろう。








  
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