今はご存じの方は少ないかもしれないが、栗山天心氏という、注目された事業家がいて、面白い本を何冊か出しておられた。
それらの本は、自己啓発本の中でも大変にユニークだった。
その栗山天心さんの本の中で、こんな話が印象に残っている。
ある男性の老人が亡くなる時、彼は孫の男性にこう言ったそうだ。
「俺のような寂しい人生を送るな」
この「寂しい」という言葉が、この孫にとっても、栗山さんにとっても、非常に感慨深かったのだろう。
「寂しい人生」とは、この老人の場合は、「冒険をしなかった人生」と言って良いと思う。
この老人は、若い時から、分をわきまえ、身の程を知り、出過ぎた真似をせず、周囲に気を配り、トラブルもリスクも避ける人生を送ったのだろう。
それで、栗山さんは、「冒険しよう」「身の程なんかわきまえるな」「出過ぎたことをしよう」「リスクがあるのが男の人生だ」などという話に持っていったのだと思う。

だけどねえ、言っては悪いが、この老人は、孫のためを思って言ったのではなく、おそらくだが、負け惜しみを言ったのだ。
その負け惜しみとは、「思ったほど手堅くやれなかった」こと、つまり、今で言えば、サラリーマンとして出世出来なかったことに対する負け惜しみなのである。
うまく出世出来たサラリーマンだって、それなりに失敗はしているはずで、それを悔んでいる場合も多いだろう。
しかし、そんなふうに、そこそこうまくいった者は、息子に「冒険しろ」とは言わないものなのだ。
そこそこうまくいったが、もしかしたら役員になれたかもしれないのに、部長で終わった者は「やっぱり手堅いのが一番」「真面目に生きることが結局は正しいのだ」と息子に言うものなのだ。
ところが、しょぼいまま終わったお父さんほど、息子には「思った通りに生きよ」「冒険こそ男のロマン」なんて言うのだ。

早い話が、年寄のアドバイスは、話半分に聞いた方が良いということだ(笑)。
少し前のことだが、初音ミクさんの会社のクリプトン・フューチャー・メディアの社長である伊藤博之氏の講演で、こんな話を聞いた。
「私の故郷(北海道)でも、ミュージシャン目指して東京に行った者がいたが、皆、30歳くらいで諦めている。しかし、その歳から別のことでスタートするのは難しい」
そう言われるからには、伊藤社長もミュージシャンになりたかったのだろうなあと想像する。
だが、伊藤社長さん本人は、高校卒業後、公務員(北大職員)をやりながら、夜間大学を卒業するという、出来る範囲で手堅い道を進まれている。
その中で、好きな音楽にかなりの時間とお金を注いだのだが、電子音楽の分野ということもあり、仕事や大学を捨てるほどではなかった。
そして、たまたまっぽいが、電子音楽で小さな商売を重ねているうちに、それがビジネスになってきたので、30歳くらいで独立されたのだと思う。
その伊藤社長が講演で言われた、次の一言が私の心に響いた。
「人生を賭けるな」
ミュージシャンになろうと地方から東京に行くのは、人生を賭けてのことで、格好は良いが、ほぼ全員がうまくいかない・・・つまり、冒険者のほとんどが人生を棒に振る。
とはいえ、人生を賭けてはいけないが、好きなことを何かしないといけないということと思う。

ビル・ゲイツは、大学生でありながらコンピュータービジネスに熱中したが、家は金持ちだし、若かったので、人生を賭けてる感はなかったと思う。
それで、たまたま成功したのだ。
スティーブ・ジョブズは、里子として育った家庭は金持ちではなく、大学をやめた時は食べるのにも困ったが、きっと、楽天家だったのだし、大学の寮に転がり込める友達がいたし、エレクトロニクスが好きだったので、その趣味を生かして電子機器の会社で働きつつ、たまたま知り合った天才スティーブ・ウォズニアックと意気投合して、いろいろ変なことをやっているうちに、たまたま成功したのだ。

モノになるかどうかは分からないが、好きなことをある意味気楽に(ただし熱心に)やっていれば、伊藤社長も言われていたが「セレンディピティ(幸運な偶然)」を掴んで成功するかもしれない。
伊藤社長もゲイツもジョブズもまさに、セレンディピティで成功したのだと思う。








  
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