宮本武蔵は、吉川英治の小説にあるような超一流の剣士などではなく、いわば、剣術屋、もっと言えば、喧嘩屋であったかもしれないが、それなりに強かった。
ところが、その強さが面白い。
剣豪などでなくても、そっちの方(武蔵の本当の強さ)がずっと良い。
武蔵は、175cmくらいもある、当時としては異様なほどの大男(千葉周作は180cmほどあったらしいが)で、しかも、怪力無双であり、それが生き死にの勝負を繰り返していたのだから、そりゃ強い。
しかし、それだけではないと思う。

以下は、司馬遼太郎の『真説 宮本武蔵』の私の記憶であるから、面白いと思ったら本を読んで欲しい。

有名な、吉岡道場一門との決闘も作り話だが、吉岡当主との試合は本当にあったらしい。
だが、これも、吉岡英治の小説にあるお話・・・まずは当主の兄に再起不能の重傷を与えて勝ち、次に、兄以上の実力者の弟を叩き殺した・・・なんてのは嘘で、吉岡兄弟は老齢までピンピンしていたらしい。
ところが、この試合、吉川英治の小説なんかより、本当の話の方がずっと面白く、そして、勉強になる。

吉岡道場は、兄が当主だったが、兄はある時期から剣の訓練をしなくなり、遊行に明け暮れ、太ってしまい、もう剣の試合は無理そうで、来訪してくる剣客との試合は全て弟が受けていた。
そんな中、宮本武蔵から挑戦状が届く。
挑戦状は、近くの寺の者から届けられた。
挑戦されれば逃げることは出来ないし、武蔵の挑戦状にも「受けなければ、お前が臆病で逃げたと言いふらしてやる」と脅迫の文言があったらしい。
とはいえ、吉岡弟は、あらゆる挑戦を退けてきた腕自慢だ。
ただ、武蔵は、絶対勝てる相手でなければ戦わないはずなので、それほどではなかったのかもしれない。
当主の吉岡兄が、試合の許可を藩から得ようとしたところ、どういう訳か、試合は公開の公式戦となった。
吉岡弟には初めてのことで、名誉であり、喜んだ。
ところが、兄は、試合は自分がやると言う。
当然、弟はいきり立った。兄が形の上では当主だが、今や実力は自分がずっと上。それを道場の門下の者達にも明確に示したくて、兄に「ご教授を願いたい」と稽古を申込んでも、いつもかわされて来た。
そんな兄は、いつも試合は自分にやらせているのに、公式試合だから自分がやって、名誉を横取りしようと言うのか?
弟は、兄に、なぜあなたがやるのかと尋ねたら、兄の答は、「お前では勝てない」だった。
当然、弟は納得出来ない。
すると、意外にも、兄は弟に、自分と立ち会えと言う。つまり、稽古と試合の間のようなものだ。
兄を前に木刀を持った弟は驚く。まるで打ち込めない。
兄は「これで分かったか?」と言う。
兄が、自分が立ち会おうとした理由はこうだ。
武蔵と会った寺の者に、武蔵の印象を聴くと、その者(寺の男)の武蔵に対する恐れ様は尋常ではなかった。
初対面の、特に臆病でもない大人を、それほど恐れさせる者であれば、強烈な気を持っているはずだ。
この気が、怪力や、その他の身体能力、そして、実践経験以上に、武蔵の力であった。
弟には気の力がまだない。それでは勝てるはずがなかった。

試合は当然だが木刀で行われ、両者の木刀が相手の頭上で止まり、「相打ち」が宣告された。
吉岡兄の鉢巻には血が付いていたらしいが、武蔵の鉢巻は元々赤っぽく、武蔵は鉢巻を取ろうとしなかったから、武蔵も傷を負ったかどうかは分からない。
だが、打たれていなかったなら鉢巻を取れば良いはずであるから、やはり武蔵も打たれていたのではなかったか?
武蔵は不満であったが、試合は引き分けであった。
その後、武蔵は吉岡とは一切関わっておらず、吉川英治の小説のような、吉岡弟との試合や、道場門下多勢との決闘なんて決してなかった。

重要なことは、武蔵の気の力である。
吉岡兄にしても、彼がどうやって気の力を身に付けたかであるが、夜中に森で瞑想をしていた様子があった。
武蔵に関しては、異常な家庭・・・というより、異常な父親との関係の中で身についた狂気の影響もあると思われる。
ちょっと気になるのが、本宮ひろ志さんの漫画『武蔵』で、武蔵が山籠りをして、1本の杭を木刀でひたすら打ち続けたことだ。
もちろん、これは、本宮ひろ志さんの創作であるだろうが、本宮さんほどの天才漫画家が、何か霊感を得て描いたのかもしれない。
これは、徳川家光が少年時代、柳生宗則にやらされた行と同じである。
少なくとも、1年365日、1日も欠かさず同じことを続ければ、気の力を得る可能性がある。
私もそう感じるのである。









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