私が通っていた幼稚園のクラスで、毎日やっていたのかどうかは憶えていないのだが、じゃんけんトーナメントをよくやっていた。
クラス全員が2人一組でじゃんけんをすることを繰り返せば、最後に、「今日のチャンピオン」が決まる。
じゃんけんに実力があるのかどうかは分からないが、4つ5つの子供にとっても、一番になることは嬉しいものらしい。
だが、私は、一番になったことがあったっけ?
「今日の一番はKayくん!」
なんて言われたことがあったっけ?
実を言えば、言われたような気もするし、その時の状況を、そこそこリアルに想起できる。
しかし、それが想像であるような気もする。
そして、ある変わった出来事がなかったら、そんなゲームをしたことも憶えていなかったと思う。

ある日、そのじゃんけんゲームが行われていた。
「メリーさんの羊」とかの歌を歌いながら、じゃんけんの相手を決め、歌が終わるのを合図にじゃんけんをする。
とろい子はじゃんけんの相手を決めそこね、また、積極的に相手を求めない子もいて、先生がそんな「ぼうっとしている」子達を慌てて組み合わせたり、相手にあぶれた1人の子には、先生がじゃんけんの相手になったりした。
常に自分で相手を決められない子もいたような気がする。
私はこのゲームに熱心でなかったので、そんな状況を観察していたのかもしれない。
ところが、ある男の子とじゃんけんの「勝負」になった時だ。
私は普通に、ぐーかちょきかは忘れたのだが何か出したが、その男の子はどこか暗い淀んだ表情で後から私の出したものに勝つものを出した。
私は何かおかしな感じがしたが、まだ、不正というものの観念がなかったためと思うが、そのままおとなしく引き下がった。
そして、「今日のチャンピオン」は、その男の子だった。
先生が、彼に対して皆に拍手を求めると、すかさず、不満や非難の声があがった。
「○○くん、後出しばっかりするのよ」
私は、ああ、そうか・・・あれは後出しというのか。うまい言い方もあるものだと思った。
先生がどうまとめたのかははっきり憶えていない。
真義を確かめるのは、教育上良くないというより、面倒だろうから、そんなことはなかったと思う。
ただ、非常に印象深く憶えているのは、勝利者宣言を受けた時のその男の子は、決まりきったような勝利のポーズをさせられたのだが、顔が少しも嬉しそうでなく、私と「対戦」した時そのままの、暗い淀んだ表情だった。
実は、私がその子に負けた後で、その子が他の子と対戦するのを見ていた。
やはり、相手が出した後で、あきらかにワンテンポ遅れて出していた。
思えば、下手な後出しだ。
「もっとうまくやれないのかい!」と思ったのは、ずっと後で、そのことを思い出した時に思ったことかもしれない。

彼は、いったいどこで後出しじゃんけんなんて方法を憶えたのだろう?
兄か誰かにそんなことをされたのかもしれない。
それで悪意なく試したのだが、勝っても気持ちの良いことではなく、あんな魂の抜けたような表情になったのだろう。
その後、彼は、そんな不快な気持ちが嫌で不正を嫌うようになったか、あるいは、「勝ちは勝ち」と思うようになって、不正のテクニックを磨いていったのかは、私は全く分からない。

しかし、世の中に不正なんていくらでもあるし、非難されない不正も数多いかもしれない。
不正であろうが、理屈の上でルールに則っていれば非難される理由はないと思い込み、やがては罪悪感もなくなってくる。
さらには、そんなやり方をする者が「賢い人」として賞賛されたりもする。
株取引の上級テクニックがそんなものかどうかは知らないが、金というものは、与えたものやサービスに対する報酬として受け取るべきものだ。
たとえ合法であったり契約に反しなくても、与えずに受け取れば、その勘定は人知を超えたどこかに記録され、いつか何らかの形で対価を強制的に回収される。
理屈ではなく、美しい感情がそう教える。そんな感情が教えることは、万に1つの外れもない。
フォード自動車の創業者フォード一世(ヘンリー・フォード)が「販売やサービスという実体のないビジネスは必ず破綻する」と著書に書いていたのを印象深く憶えている。
ところで、一流の塾や予備校で、入試予想問題を作ると、それがかなり当るものであるらしい。
私は、他人に押し付ける気もないが、それも十分に不正だと思っている。
だって、そんなものを利用する者と、そうでない者が勝負するのって、どう言っても公平ではない。
また、そんなものを使って勝っても、実質は後出しじゃんけんと変わらない。
後出しじゃんけんで勝って暗い顔をしたあの子はまだ良かった。
しかし、そんなやり方で勝って晒す笑顔は醜い。
受験などでは、本人に自覚を与えないようになっていることがまた恐ろしいが、そんなことを繰り返せば、存在そのものが醜くなるだろう。









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