宮沢賢治の『風の又三郎』の冒頭は、実に不思議な詩で始まる。

どっどど どどうど どどうど どどう
青いくるみも吹きとばせ
すっぱいかりんも吹きとばせ
どっどど どどうど どどうど どどう

見た途端に、トランス(変性意識。一種の催眠状態のような無意識に支配された状態)に陥りそうな気がするし、実際にそうなのかもしれない。
私は知らなかったが、この詩は、曲がつけられてレコードになったことがあるらしい。
作曲は杉原泰蔵さんというピアニストによるもののようだ。

では、この「青いくるみも吹き飛ばせ、すっぱいかりんも吹き飛ばせ」の意味は何だろう?
もちろん、それははっきり分からないし、1つではないかもしれない。見る人、あるいは、聴く人がそれぞれに捉えれば良いことに違いない。

昨年(2012年)11月23日に、東京のオペラシティ・コサンサートホールで公演が行われた、冨田勲さんの新作交響曲『イーハトーヴ交響曲』第4幕の『風の又三郎』で、この歌が演奏されたが、これが実に素晴らしく、私は、まさに、風の又三郎の世界を鮮明に感じることができた。

曲はまず、慶応大学とそのOBの男性合唱団の、激しく重厚な声で始まる。それは風神のようだった。

あまいりんごも吹き飛ばせ
すっぱいりんごもふきとばせ

次に、聖心女子大学の女性合唱団の、少し優しく涼やかではあるが、厳しさも秘めた声。
また、少年少女合唱団の素朴なだけに、むしろ根源の力を感じる声。

そして、なんと、又三郎になった初音ミクが、どこか幼く、しかし、切なく、危うさや淋しさすら感じる、だが、強い意志のこもった澄み切った歌声で、

どっどど どどうど どどうど どどう
あまいざくろも吹き飛ばせ
すっぱいざくろもふきとばせ
どっどど どどうど どどうど どどう
風よ吹け

と歌い、私は、すっかり精神を持っていかれてしまった。

青いくるみ、あまいりんご、あまいざくろ

それは幸福の象徴のようである。
我々は、それを吹き飛ばさなくてはならない。それに安住してはならない。

すっぱいかりん、すっぱいりんご、すっぱいざくろ

それは、人生に訪れる苦難のようだ。
そして、我々は、それもまた吹き飛ばさなくてはならないのだ。そんなものに翻弄され、負けてしまってはならない。
「飴とムチ」なんて言う。
心は飴を喜び、ムチを嫌がる。
だが、共に受容し、楽しんだり、苦しんだりするが、そうやって揺れ動き、落ち着きのない心を吹き飛ばしてしまうのだ。
それが悟りではないだろうか?

子供は誉めて育てろという意見がある。いや、今や、プロ野球の監督が、「今の若い選手は誉めて育てなければならない」などと言う。
飴による指導だ。
しかし、誉めるだけでは、子供はそこに安住する。
必要な時は厳しくしつけ、怒ったりもしなければならない。
だが、怒るさけで、子供をいじけさせてもならない。
動物の調教だってムチだけでは駄目なのだ。まして、心を持った人間では尚更である。
だから、また誉めるのだ。
甘いりんごも、すっぱいりんごも、しっかり与えるのだ。
運動会で手をつないでゴールなどという馬鹿をやってはならない。
だが、本当に平等にすべき時には、がんとしてそうするのだ。だが、世間では、この正反対をしていないか?
甘いざくろも、すっぱいざくろもしっかり味わい、子供は成長し、誉められようが、貶されようがビクともしない、強い大人になるのである。
その機会を奪ってはならない。
そして、我々は冒険に挑む。冒険には、甘いくるみも、すっぱい花梨もいっぱいあるのだから。









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