アルベール・カミュがノーベル文学賞を受賞する要因となったと言われる、短編小説『異邦人』の中の、こんなシーンが私は好きだ。
若く魅力的な娘マリィが、主人公の青年ムルソーに「結婚してくれる?」と言う。
私の勝手なイメージでは、明るい太陽の下、快活で可憐なパリジェンヌのマリィは、ほんの僅かなためらいはあったかもしれないが、子供の頃から可愛いと言われ続けてきた自分の魅力を信じているし、ムルソーに嫌われているはずはなかった。
ムルソーは、「いいよ」と即答する。
マリィの花のような笑顔が私の目に浮かぶように感じた。
女の子らしく両手を後ろで交差させて組み、ほっそりとした身体を少し斜めにしならせてムルソー・・・いや、私を見るマリィの姿が本当に見えるようだ。
マリィは幸福感を更に深めたかったのかもしれないが、その場で適切と思われる次の質問をする。マリィは当然の答を予想していたと思う。
「私を愛してる?」
だが、ムルソーの答は、特に読者には不可解に感じるだろう。
「よく分からないけど、多分、愛していない」
マリィは戸惑いと悲しみが混じった顔になったと思う。

ただ、そこまで読んでいる読者には、多少の違和感はあっても、案外に涼やかさを感じるのではないかと思う。特に若い人の場合は。
私は、初音ミクの歌声の軽やかな清涼さとは、そんなものではないかと思う。それは、まるで高いところを吹く風のようなものなのだ。

マリィが戸惑ったのは、彼女が世間に毒されていたからだ。
しかし、彼女も本質では、ムルソーの態度を悪く感じていなかったはずだ。
ムルソーが投獄され、死刑の可能性が高い状況でも、実際には婚約もせず、何の義理もないはずのマリィは、彼に逢いに来続けた。

アメリカのノーベル賞作家アーネスト・ヘミングウェイの『兵士の故郷』の主人公の青年クレブスも、ムルソーと似たところがある。
そして、対比させると面白い場面がある。
兵役を終え、故郷の母親のところに帰ったクレブスに、母親は世間的な生き方を求める。
しかし、クレブスは、そんなことはしたくなかっただろう。それは、彼にとって生きることを放棄するようなものだ。
母親は、クレブスに、「ママを愛しているかい?」と尋ねる。
ムルソーに対するマリィのように、母親は当然の答を求めていたはずだ。
しかし、やはりクレブスは、即座に「いいや」と答える。
母親は、悲しいというより、絶望的な表情になったのだと思う。クレブスは、
「冗談だよ、ママ」
と言わなければならなかった。
この母親には、マリィのような純粋さやエネルギーはないからだ。
母親は、すがるような思いだったに違いない。
クレブスに、一緒にひざまずいてお祈りをすることを要求する。
クレブスは、格好だけはしたが、祈りの言葉を発することはどうしてもできなかった。
当たり前であると思う。

あなたも、世間に対して、本当は、ムルソーやクレブスのような得体の知れない嫌らしいものを感じているはずだ。
いや、既に、身動き出来ないほどのダメージを受けているかもしれない。
しかし、我々は、そういった、我々を束縛するものから、魂を解放しなければならない。

コリン・ウィルソンは、25歳の彼を一夜で世界的作家にした『アウトサイダー』で、ムルソーやクレブスを「アウトサイダー」としている。世間の教義や信念にひれ伏した人間がインサイダーで、それを拒否する人間がアウトサイダーとすれば、ムルソーやクレブスがアウトサイダーだと言うのは問題はない。しかし、ウィルソンはアウトサイダーを病的な人間のように扱っているのは大問題だ。そりゃ、世間の中ではアウトサイダーは異質ではあるが、それは彼らには責任はない。
ムルソーやクレブス、そして、純粋な魂としての我々が憂鬱で生き難いのは、世間の方の問題である。

そして、魂を得体の知れないものから解放する方法は、もうはっきり分かっている。
それは、最も簡単なことなのだが、最も難しいことだ。
いつも述べている通り、我々は、世界に対して、何らの支配力も持っておらず、いかなるコントロールも出来ないことを受け入れることだ。
そうすれば、あらゆる不幸の原因である自我が弱まり、やがて至高の力により、自我は破壊される。
しかし、このようなことを本当に受け入れる者は滅多におらず、人は何度もこの地上に再生するのである。
荘子によれば、あるがままの世界を受け入れ、道(タオ)と一体になれるのは、数百年に一人の大聖人と言うが、もう時代が違う。
今は、真理を受容できる者も多くなっている。だが、その分、救いようのない者も溢れており、その影響で、これまでにないような様々な悪いことが起こるようになってきた。
今年の末で世界が終わるというのではないが、大変革はあるかもしれない。
イエスは、「目を覚ましていろ」「いつ貴い者が来ても良いように注意深く備えよ」と言ったが、それを忘れてはならない。









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