最近話題の「タイガーマスク運動」に関心を持ち、「ターガーマスク」の漫画を購入して読んでみた。
原作者の梶原一騎は、主人公のタイガーマスクこと伊達直人に自己を投影していたのだろう。そこには、確かに、梶原一騎の屈折した人間性を感じるのだが、その歪み具合は、人間として共感してしまうところもある。
私は、梶原一騎の伝記「梶原一騎伝~夕やけを見ていた男~」を熱心に読んだことがある。もしこれに書かれていることが事実とすれば、梶原一騎は最低最悪の人間である。現実に服役もしているのだが、その極悪非道さは桁外れだ。もちろん、書かれたことをそのまま鵜呑みにする訳ではないが、一部に純心な部分も感じるにせよ、問題の多い人物であったかもしれない。しかし、今は梶原一騎本人のことには深入りしないでおこう。

私は、この「タイガーマスク」の最初のあたりを読み、不覚にも感動を覚えてしまった。
タイガーマスクは、初めは決して正義のヒーローではなく、極悪非道な悪役レスラーで、アメリカでも日本でも、レスラー、あらゆるプロレス関係者、そしてファンに徹底的に嫌われる。しかし、当のタイガーマスクはふてぶてしく、平然とした態度を貫く。
ある時も、タイガーマスクは、ジャイアント馬場をはじめとする日本のレスラーやファンの前で強い非難と罵倒を浴びていた。そして、ついに馬場から、日本マットからの追放を言い渡される。しかし、それにも動揺せず、悠然と立ち去ろうとするタイガーに大人の男性ファン達が恐れを感じて後ずさりする中で、一人の幼い男の子がタイガーにサインを求める。これには、平静を装いながらも、タイガーは衝撃を感じていた。大人達に、「恐くないのか?」と聞かれた男の子は、「どうして?」と不思議がる。その様子を見たジャイアント馬場は何かを感じ、タイガーの追放をいったん取り消す。

この話に、私は、アップルコンピュータのCEO、スティーブ・ジョブズの昔のことを思い出した。
ある会社が、ジョブズに製品のプレゼン(プレゼンテーション。会議での説明のこと)をするために彼を招待したが、ジョブズは製品を一目見るなり、「下らない!」と言って即刻立ち去る・・・ジョブズのこんな奇行はよく知られていた。
だが、ジョブズは親しい人しかいない場所で、「僕だって普通の人間なんだ。みんなどうしてそれが分からないんだ」と言っていたという。ジョブズもまた屈折した人間であり、その成長過程には様々な複雑な事情があった。

またある時、タイガーは、自分をリングで殺すために送り込まれてきた刺客である凶悪な強豪レスラーと戦う中、敵の殺人技に絶体絶命となる。死の苦悶にのたうつ中でも、満員の観衆の罵倒が容赦なくタイガーに浴びせられる。
その中で、ただ一人、タイガーを応援する少年の声がタイガーの耳に届く。タイガーは最後の力を奮い起こし、奇跡の反撃に転じる。
タイガーは、少年の声援を、荒れ狂う海で船乗りが見つけた灯台の燈のようだと感じた。

確かに、子供向きにセンチメンタルに過ぎる描写であったが、並みの人間には無い衝撃的で悲惨な体験を多く積み重ね、なおかつ間違いなく天才であった梶原一騎は、人間を深く洞察していた。
人に力を与える何かを探すということが、あらゆる作家、芸術家、求道者の共通する目的ではないだろうか?
サルバドル・ダリなども、人間的には非常に問題が多かったようだが、その点では同じであったろうし、岡本太郎もまた、芸術や祭りの目的を人間が根源的エネルギーに触れてそれを得ることと考えていたことは確実と思う。
英国の天才作家で、哲学者と言って差し支えないコリン・ウィルソンがまさにそうだった。彼は、表現の是非はともかく「すっかり打ちひしがれた中でも、好みのタイプの女性が全裸で部屋に入ってきたなら、たちまちエネルギーの充足が起こるのを感じるはずだ。私が探求するものは、その効果をもたらす秘訣である」と昔から言っていた。

「タイガーマスク」や「あしたのジョー」など、梶原一騎作品の魅力はそこにあるのではないかと思う。
彼もまた、狂気に陥り生命も危ういほどに苦しかったのだろう。その中で、自己を支え、解放する強力なエネルギーを求めていたに違いない。そのほとんどは彼自身の失望に終わったにしろ、その願望を天才的な知覚で探求したものが彼の作品なのだろう。
だが、歳と共に、梶原の作品は、ますます濁り、歪んでいった。だが、「タイガーマスク」あたりであれば、良い部分だけ見るなら、貴重なものが無いとも言えない。

ところで、私が購入した「タイガーマスク」の600頁のオリジナル版「覆面ワールド・リーグ戦の巻」はAmazonでは売り切れのようだ。物語の最初から、覆面ワールド・リーグ戦の完結まで描いてあり、1冊を読むなら丁度良いもので、2010年出版の最新本である。すぐに重版が出ると思う。







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