悟りを開くと、母親を他人と感じることになる。

キリスト教の聖母マリアにより、母親というもののイメージが高められていることがあると思う。しかし、キリスト教でも、プロテスラント系では、マリアを重要視しないと聞くし、そうでなくても、我々の母親は聖母でない。
マリアを崇拝するとしても、それは、マリアが普通の女、普通の母親と全く異なるからである。
しかも、新約聖書の中で、イエスはマリアを特別扱いしたことは全くない。それどころか、「あなたの母上とご兄弟が会いに来られています」と言われたイエスは、「神の教えを行う者が本当の私の母であり兄弟だ」と答えただけなのである。もちろん、十字架上で死ぬ時も、母の名を呼ぶことはなかった。

精神分析学者の岸田秀さんは、ある時期までは、自分の母親を素晴らしいものと思っていたようだ。母親が死んだ時には、母親への感謝を泣いて訴えさえした。しかし、自分の精神が異常であることに気付いていた岸田さんは、フロイトを独学し、深く追求するうちに母親の正体を見破り、ある程度、精神の修復に成功する。そして、自分の母親が特別なのではなく、全ての母親が悪いと説く。
興味深いので、岸田さんが母親の影響で持つことになった精神異常を、思いつくままに上げてみる。
まず、歩き始めると、よほどの決意を起こさないと、引き返すことが出来ず、そのまま歩き続ける。これは、母親が全て自分の意志で岸田さんを動かそうとし、岸田さんが自分の意志で何かをすることを禁じた母親の影響だろう。
また、岸田さんは子供の頃から、女の子を見ると、彼女たちは本当は男なのではないかと思えてならなかった。これは、一見女らしく優しい女の子が、実は男に象徴される支配の欲望を隠しているという母親の実態を、女の子達に投影していたのだと思う。
そして、戦争で戦死した兵士の絵やそれを示すような写真を見ると、異常なまでに感情移入した。それらの若い兵士達は、無理矢理の死により、やりたいこともやれずに死んだのだが、それは、母親が岸田さんを自分の意のままにし、本当にやりたいことができないという自分の運命を重ねたのに違いない。
岸田さんの母親は、特別に金持ちで強欲だったので、その悪影響は特に大きかったのだが、母親とはそういうものであると、岸田さんは断言する。

我々にとって、最も関係の深い人間は母親である。
それは、母親の顔を知らないという人ですら同じであるばかりか、むしろ、そんな人の方が、心の中で母親の存在が大きいものである。
しかし、母親との関係を断ち切り、宇宙そのものとの関係性を確立することが悟りなのだ。全ての人間は、それを目指している。

悟りを開くと、母親は特別ではなく、世間でいう母親への情愛は消える。
しかし、同時に、母親への恨み、憎しみも消えるのだ。無意識な場合も含め、母親を憎む者のなんと多いことか!
心身医学の父と言われ、フロイトにエスの概念を与えたドイツ人医師ゲオルク・グロデックは、母親を憎む娘は子供を作らないと言う。そして、実際は母親を憎んでいない者はおらず、妊婦の行動を観察すると、子供を殺したいという意志がいくらかでも見られるものであるらしい。例えば、妊娠すると、無意識に身体をあちこちにぶつけるようになったり、歯が痛くなることが多いのは、子供をかみ殺したいという衝動らしい。
しかし、出産の際には、自分を聖母マリアのイメージに重ねて恍惚となるらしいが、それは全く幻想の偽物のマリアのイメージであろう。

悟りを開くと、母親は全くの他人と変わらなくなる。しかし、同時に、母親への恨み、憎しみも感じなくなる。
そして、おかしなことに、悟りを開いた者にとって、他人というものは存在しない。彼は宇宙そのものだ。万物を等しく、真の意味で愛する。
悟りを開くと、母親との関係はむしろ良くなる。普通の人は、悟りを開くまでは、本当は母親を憎んでいるのだから。ただし、繰り返すが、悟りを開いた者にとって、母親は特別な情愛の対象ではない。たまたま縁のあった人間として、合理的な範囲で親しいのであり、親しくすることに不都合があれば、冷静に関わりを避けるのである。

このテーマに関する興味深い2つの物語を思い出す。
1つは、優しかった父親が、実は自分を全く愛していないことを知った11歳の娘は、それを冷静に受け止めるというもの。本当は、彼女は心の奥では気付いていたのだろうし、父親の場合は、さほどではない。
しかし、もう1つのお話では、虐待を受けながらも、かつては優しかった母親の思い出を胸に、母親を慕い懸命に尽くす9歳の娘は、母親が最初から自分を嫌っていたことを知り、崩れ落ちる。発狂してもおかしくない場面だった。







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